ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
病室にて/その1
ケイコ



いよいよ会長の状態が厳しいということで、病院へ見舞いに来た

勝田さんの話では、今月いっぱいが山だと医者から言われてるらしい

病室前の廊下には、その勝田さんが立っていた

「おう、ケイコちゃん、ご苦労様」

私に気づくと、声をかけてきた

「さっき発作が起きてね。今、先生が診てて…、ちょっと中、取り込んでるんだ」

「大丈夫なんですか?私、出直した方がいいですかね」

私がそう尋ねると、勝田さんは病室を少し覗き込んで様子を確認した後、答えた

「なんか、落ち着いてきたようなんで、少しすれば話しできると思う。待っててもらっていいかな?会長、君が来るのを楽しみにしてたみたいだから。話しておきたいこともあるらしいし」

「じゃあ、待ってます。私は時間とかいいんで…」

「1時間くらい前に麻衣さんも来てね。会長、腕立てとかやってたんだよ。麻衣さんの前で元気なとこ見せたかったみたいだ、あの体で…。心臓、応えたんだろう、きっと」

そうか、麻衣も今日見舞いに来たのか…

やっぱり、そろそろってとこなんだろう


...


しばらくすると、病室から先生と看護婦さんが出てきた

「どうやら落ち着いたようです。だけど、あまり無謀なことはなさらないように、お願いしますよ。こちらも責任持てませんので…」

初老の先生は、勝田さんにそう”忠告”した

「わかりました。以後気を付けます。それで、会長、話はできますか?」

「あんまり長くでなければ、負担にはならんでしょう。何かあれば呼んでください」

先生はそう言ってから、浅くお辞儀して病室を後にした

「じゃあ、入るか」

私は勝田さんと病室の中へ入った

「会長、具合の方、いかがですか?ケイコちゃんが見えましたけど」

会長は点滴打ちながら、上を向いて目を閉じていた

「ああ、平気だ。二人で話すから、お前は出てろ。他が来ても、ここ入れるな」

「わかりました。しかし、さっきみたいな無理は絶対にしないでください。ケイコちゃん、しっかり見張っててね」

私は「はい」とだけ答えると、勝田さんは廊下へ出た

「会長、ホントに体、大丈夫ですか?」

「フン、じき、死んじまうのは分かってるんだ。医者のヤツ、治せもしねえくせに、小うるさいことばかり言いやがる」

会長は目を開けて、上を向いたまま気丈に言い放った

「麻衣の前ではな…、最後まで突っ張ってねえといかんと思ってな…」

ここで、会長は私の方に向き直り、視線を合わせた

さすがにやつれてはいるが、例の鋭い眼光は”そのまんま”だ





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