あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
プロローグ
レナートははらりと落ちてきた癖のある黒い前髪をかき上げた。一つに結んだ髪が胸元に流れてきたため、手で払いのける。
そろそろ産まれそうだと産婆から言われ、部屋を追い出されたのは一時間程前。その間、扉一枚隔たれた向こう側からは、妻であるウリヤナの苦しそうな声が聞こえている。
最後までお腹の子に魔力を注ごうとしたら、産婆に止められた。
『充分に魔力に馴染んでいます。これ以上の魔力を注ぐとウリヤナ様のほうが持ちません』
レナートにとっては初めての子である。だからいつまでにどこまでの魔力を注いだらいいのかわからなかった。
部屋を出る間際にウリヤナはレナートに向かって手を伸ばしてきた。彼はその手を両手で握りしめた。
『部屋の外で待っている。力になれなくて、悪いな……』
その言葉にウリヤナは首を横に振る。彼女の鮮やかな勿忘草色の髪は一つで結ばれてはいるものの、寝台の上ではその先が広がっていた。汗ばんでいる額には、前髪がぺったりと張りついている。その汗を手巾で拭って水を飲ませてから、レナートは部屋を出た。
扉が閉まり向こう側と遮断されてから、ずっとこの扉の前に立っている。
『うっ……あっ……あぁああっ……』
定期的にウリヤナの苦しそうな声が聞こえてくる。その声の間隔もどんどんと短くなっている。
レナートはいてもたってもいられず、扉の前をぐるぐると歩き始めた。この場で自分にできるのは何もないとわかっているが、それでも気が気ではない。そのたびに髪が乱れ顔を覆う。気になれば払いのける。それの繰り返しだった。
そろそろ産まれそうだと産婆から言われ、部屋を追い出されたのは一時間程前。その間、扉一枚隔たれた向こう側からは、妻であるウリヤナの苦しそうな声が聞こえている。
最後までお腹の子に魔力を注ごうとしたら、産婆に止められた。
『充分に魔力に馴染んでいます。これ以上の魔力を注ぐとウリヤナ様のほうが持ちません』
レナートにとっては初めての子である。だからいつまでにどこまでの魔力を注いだらいいのかわからなかった。
部屋を出る間際にウリヤナはレナートに向かって手を伸ばしてきた。彼はその手を両手で握りしめた。
『部屋の外で待っている。力になれなくて、悪いな……』
その言葉にウリヤナは首を横に振る。彼女の鮮やかな勿忘草色の髪は一つで結ばれてはいるものの、寝台の上ではその先が広がっていた。汗ばんでいる額には、前髪がぺったりと張りついている。その汗を手巾で拭って水を飲ませてから、レナートは部屋を出た。
扉が閉まり向こう側と遮断されてから、ずっとこの扉の前に立っている。
『うっ……あっ……あぁああっ……』
定期的にウリヤナの苦しそうな声が聞こえてくる。その声の間隔もどんどんと短くなっている。
レナートはいてもたってもいられず、扉の前をぐるぐると歩き始めた。この場で自分にできるのは何もないとわかっているが、それでも気が気ではない。そのたびに髪が乱れ顔を覆う。気になれば払いのける。それの繰り返しだった。
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