あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
二、旅立つ日
神殿側はウリヤナが聖なる力を失っていることをもちろん把握していた。それでも彼女に居場所を与えていたのは、失った力が戻ってくるかもしれないと考えていたためだ。
聖なる力は魔力と異なるため、何がきっかけで力が与えられ何がきっかけで力を失われるかがわからない。だから力が戻ってくることに彼らは期待したのだろう。
新しい聖女であるコリーンは、神殿には寄り付かない。
そんな彼らからしたら、意思は強いが神殿の教えを守っているウリヤナは、手放したくない人材なのだ。
だがコリーンが聖女としてクロヴィスの婚約者の立場におさまってしまった以上、ウリヤナはもうあの二人にかかわりたくなかった。神殿にいれば、何かと呼び出されていいように使われてしまうかもしれない。
「修道院でお世話になろうと思います」
修道院は信者たちが共同生活を送る場である。神の住まう場所で神と共に生活している者たちがいる神殿とは生活様式も異なる。
国内に修道院はいくつかあるが、それのどこもが国の外れにある。修道院と孤児院を国の外れ――国境におくのは、隣国へのけん制のためでもあった。
国内に数ある修道院の中でも最も規律が厳しいと言われている北の国境の町ソクーレにある修道院へ行こうと決めていた。
「ウリヤナ様……」
神殿をそっと立ち去ろうとしていたのに、侍女に見つかってしまった。
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