あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
『ぼくとおかあさん、ソクーレに行くんだよ』
男の子の父親は、騎士団に所属していたらしい。下級騎士であったが、王都の外れで起こった暴漢事件に誰よりも早く駆けつけ、そのときに犯人によって刺されてしまったとのこと。その暴漢は、あとから駆けつけた他の騎士によって取り押さえられ、今は騎士団が常駐している建物にある地下牢で身柄を拘束している。
その話を聞いたとき、ウリヤナもそんな事件があったことをぼんやりと思い出した。まだ王都の警備が行き届いていない現状に、自分は何かできないのだろうかと胸を痛めた。それをクロヴィスに相談したが、彼にとっては下級の民の生活など興味がないようだった。
ウリヤナが必死に訴えても「ふぅん」としか返ってこない。クロヴィスが話を聞いてくれなければ、内容が内容なだけにウリヤナが相談できる相手などいない。心にもやっとした何かが残ったが、結局何もできずにいたのだ。
そんな彼らも苦しみから解放されるようにと、神殿で祈りを捧げることしかできなかった。もしかしたらそれは、ただの自己満足だったのかもしれない。
『大変だったわね』
彼の話を聞いたウリヤナが言えたのはその一言だけだった。優しく頭を撫でると、彼は目を細める。それは、すり寄ってくる猫のようにも見えた。
馬車に乗るとあれだけはしゃいでいた男の子も静かになる。こくりこくりと頭を動かして母親に寄り掛かって眠ってしまうのだ。
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