あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
三、別れを告げた日
コリーンは爪を噛んだ。
聖なる力に目覚め聖女となり、王太子クロヴィスの婚約者という立場を得たはずなのに、イライラは募るばかりだ。
それもこれも、あのウリヤナのせいである。
彼女とは母親を通して知り合った。同い年で同じような立場にあるためすぐに意気投合した。
派手なものを好まない二人は、お茶会で顔を合わせる他の令嬢からは「地味二人組」と陰口を叩かれることもあった。
だが、そんな悪口も気にならなかったのは、ウリヤナがいたからだ。
一人ではない。その気持ちがコリーンを強くした。社交界デビューを迎える年になっても、ウリヤナは地味だった。
その頃にはカール子爵家の噂もちょくちょくと耳に届くようになる。
出資していた商会に裏切られ、資金を全部持ち逃げされた――。
人のよいカール子爵家は騙された。
そんな噂である。
それ以降、ウリヤナも子爵夫人もお茶会に顔を出さなくなった。
お茶会どころではなかったのだろう。
それでもウリヤナは、社交界デビューには上等な真っ白いドレスをあつらえていた。デザインは少し古そうに見えたが、ドレスの裾に広がる花をモチーフにした繊細な刺繍、胸元に縫い付けられている細やかな宝石には目を奪われたものだ。
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