あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
幼い声が聞こえてきた。それは耳に直接聞こえてきた声ではない。頭に直接呼びかけてきたのだ。
思念伝達魔法。心の声を飛ばす魔法をそう呼んでいる。
この状況で「助けて」と訴えるのは、爆発に巻き込まれ人間ではないのだろうか。そして声から察するに子どもだろう。
くるりと向きを変えると、背中で一つに結わえている黒い髪がバサッと揺れた。
声のする場所を探る。
――たすけて。おねえちゃんをたすけて。
もちろん助けを呼ぶ声に応えたいという思いもある。だが、それよりもこれだけ幼い子が思念伝達魔法を使って助けを呼んでいる状況が気になっていた。
思念伝達魔法も高等魔法である。魔術師の中でも使える者は限られている。それを、幼子が使い、助けを求めているのだ。
レナートは感覚を研ぎ澄まし、声がするほうへと足をすすめる。建物を覆っていた炎の勢いは弱まっていた。
燃えた建物の近くの少しだけ奥まった路地に、複数の人がへたりと座り込んでいた。建物の壁に背中を預け、足を投げ出している。
「宿にいた人間か?」
レナートが声をかけると、彼に気づいた人間は生気のない表情を向けてきた。
「俺に助けを求めたのは誰だ?」
「ぼく」
五歳くらいの男の子がおずおずと手をあげた。寝衣姿なのは、眠っていたところを逃げてきたからだろう。
< 29 / 62 >

この作品をシェア

pagetop