あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
「ありがとう……」
「見てみろ。この子の髪は俺と同じ黒色だ」
「それも、あなたの魔力のせい?」
「そうだ。俺の魔力に馴染んだからだな」
レナートが、右手の人さし指で赤ん坊の拳をつんつんとつつく。ぱっと拳が緩みレナートの人さし指をぐっと握りしめた。
「名前を決めなければならないな」
「そうね。レナートにお任せしてもいいかしら?」
「光栄だな。だが、二人で考えよう」
そこでレナートはウリヤナの涙を拭い、彼女に軽く口づけた。
「ウリヤナ……。赤ん坊を産んだばかりで悪いが。三か月後にはお披露目が待っている。できるだけ、準備は俺のほうですすめるが……ただ、そのつもりでいて欲しい」
「ええ。あなたの立場を考えれば、仕方のないことよね」
「すまない」
「どうして謝るの?」
「俺の都合に巻き込んでいる」
ウリヤナは首を横に振る。
「私も、私の都合にあなたを巻き込んだ。私たち夫婦になったのよね?……」
「あ、ああ。そうだな……」
「だから私があなたの都合に合わせるのは、当たり前よ。夫婦だし家族なのだから……」
ウリヤナは隣で眠る我が子を、慈愛に満ちた瞳でじっと見つめている。
「この子を産もうと決心できたのもあなたのおかげ。ありがとう、レナート」
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