あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
「父親はいないのか?」
そう尋ねた彼の声は、どことなく寂しそうにも聞こえる。
「修道院に行こうとしていたくらいなのだろう? それとも、お前自身からまったく感じられない力が原因か?」
賢すぎる男は、面倒くさいかもしれない。
「もしかして俺は、お前を傷つけるようなことを口にしたか?」
「え?」
「すまない。ロイからもずかずかと物事を言い過ぎると注意を受けているのだが」
レナートは腕を伸ばして、ウリヤナの頬に触れた。何かを拭うような動きにも見えた。
ウリヤナは驚いて目を瞬いたが、自分よりもずいぶんと年上に見える彼が、雨に濡れて震えている子犬のように見えてきた。思わずクスっと笑みを零す。
「こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ありません。子を授かったことにまったく気づいていなかったので」
だが、そういった行為に及んだ事実はある。月のものもきていない。冷静になれば思い当たる節など多々あるのだ。
彼女の言葉にも、レナートは大きく目を見開いた。その顔は「すまなかった」と言っている。
「悪かった。まだ医師にはみてもらっていないのだな?」
「はい」
「わけありなんだな?」
< 42 / 62 >

この作品をシェア

pagetop