あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
「はい。ですが、レナート様は私のことをご存知なのですよね?」
「名前を聞いたことがあったからな。それでピンときただけだ」
民からは「聖女様」と呼ばれていたため「ウリヤナ」という名は伝わっていないと思っていた。その名が通じるのは、王城と神殿のみだと思っていたのだ。
「それで。お前は修道院へいくつもりなのか? 悪いが子は間違いなく授かっている。お前が不安になると、腹の子も不安になる。お前が喜べば、腹の子も喜んでいる」
まだ実感のないお腹の上にそっと両手を添えた。だが、もうあそこには戻れない。だけど、腹に子を宿したまま修道院へ行くのも気が引ける。今であれば知らんぷりをしていくことはできるけれど、日が経つにつれお腹が大きくなっていけば、他の者にも迷惑をかけるだろう。
「戻るつもりはないのだな?」
「はい」
そこだけははっきりとしている。神殿にも王城にも、そして自宅にも戻るつもりはない。
コホンとレナートは咳ばらいをした。
「だったら、俺のところにくるか?」
「え、と?」
「家には戻れないのだろう? 修道院にも行けないのだろう? だったら、腹に子を宿したままどこへ行くつもりなんだ?」
「それは、これから探そうかと」
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