あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
「そうだ。会わせたい人がいるのだが、会ってもらえるだろうか。体調は落ち着いたのだろう?」
「もう、大丈夫よ」
ウリヤナは悪阻が酷かった。この屋敷を訪れた頃は何も感じなかったのだが、医師の診察を受け、はっきりと妊娠がわかって三日目頃から、胃がむかむかとし始めた。
最初は気分がよければ食事もとれたのだが、次第に固形物が食べられなくなる。ゼリーのような柔らかいものを好んで食べていたが、それすらままならない。
最後には、水を飲んでも嘔吐してしまうという状態にまで陥った。
「あのときはすまなかった。俺も初めてのことでどうしたらいいかがまったくわからなかった」
悪阻の原因もレナートが注ぐ魔力にあったらしい。加減のわからなかったレナートが魔力を注ぎすぎたため、それが悪阻を悪化させた。それに気がついたのも出産経験のある侍女頭であり、彼はこっぴどく叱られたようだ。
しゅんとしたレナートがなぜか可愛いと思えてしまったし、彼なりに身体を気遣ってくれるのも嬉しかった。そんなレナートを宥めるのもウリヤナの役目で、そうすると彼がきゅるるんと目を潤わせた子犬のように見えてくるから不思議だった。
「気にしないで。私も初めてだしよくわからないのはお互い様よ」
今ではこうやって彼に魔力を注がれると気持ちが軽くなる。それはウリヤナ自身もレナートの魔力に馴染み始めているからだろう、と彼は言った。
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