あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
「アル。まだ、テルキには着かないのか?」
「そうですね」
そう答えたアルフィーの様子がいささかおかしい。
「どうか、したのか?」
「いえ。殿下は、まだお気づきになられていないのですね。この国の、地方の現状に」
「なんだと?」
「テルキは危険ですので、このままこの馬車で休んでもらいます」
「どういう意味だ?」
「言葉の通りですよ」
アルフィーの言葉が聞こえているのかいないのかわからないが、コリーンがきゅっとクロヴィスの腕を握る。
「殿下。王都はまだいいのです。ですがね、地方の街は食糧が乏しく。みな、今日を生きるのにせいいっぱいなのです。原因はわかりませんが。今年の不作は異常だと言われているほどです」
目の前で淡々と語りかけるアルフィーが、クロヴィスの知っている彼とは別人のように思えてきた。
「知っていますか? ウリヤナ様がいなくなってからです。ウリヤナ様は、聖女として神殿で祈りを捧げ、イングラムの平和と安穏を願ってくださっていた」
「お前、何が言いたい?」
「わかりませんか? 殿下。殿下のせいで我々は聖女を失ったのです」
「聖女なら、ここにいるだろう? なぁ、コリーン?」
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