あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
エピローグ
小さな手をぎゅっと握りしめながら、口いっぱいに乳房を含んでいる。目を瞑り幸せそうにもぐもぐと唇を動かしている様子は、見ているほうも幸せになる。
「陛下の用事は終わったの?」
生まれた頃よりも倍ほども重くなった息子に乳を与えながら、ウリヤナは夫に声をかけた。
「ああ。大したことではないのだが」
飲みが悪くなったためか、彼女は息子を乳房から引き離した。それでも彼はもぐもぐとまだ口元を動かしている。
ウリヤナより赤ん坊を預かったレナートは、慣れた手つきでぽんぽんと背中を叩く。
「重くなったな」
ウリヤナは、生まれた子を乳母の手を借りながらも自分の手元で育てていた。
レナートは小さな命の重みを腕に抱える。
「飲んだら寝たぞ?」
それでも口元を動かしている赤ん坊は、夢の中でも母乳を飲んでいるのだろうか。
「レナートに御礼を伝えてほしいと、お父様から手紙が届いたのよ」
「礼?」
「イーモンのことよ」
イーモンはウリヤナの二つ年下の弟である。
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