あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
「だが、君は聖なる力を失ったのではないのか?」
ウリヤナは表情を変えることなく、ただ奥歯を噛みしめた。彼の言ったことは事実である。今のウリヤナには聖なる力がない。
原因はわからないが心当たりはある。
彼と身体を重ねて熱を分け合ってしまった。婚約しているのだからと、彼に強引に迫られたところもあるが、それを許したのはウリヤナ自身だ。
身体を捧げれば彼の心をつなぎ留められるかもしれないと思ったのも認める。
だがその結果、逆に彼の心を失い力も失った。
「そのようですね」
「だからだよ。聖なる力を失った君とは結婚できない。だから婚約をなかったものとしたい」
微かな笑みを浮かべているクロヴィスを一発ぶん殴りたい気分である。いや、殴りたいのはあの時の感情に任せて身を捧げてしまったウリヤナ自身だ。
「承知しました……。ですが一つだけ約束していただきたいことがあります」
こうなってしまってはウリヤナの気持ち一つで解決するような問題ではない。婚約を続けた先に結婚があったとしても、彼の離れた心を手に入れるのは難しいだろう。結婚の先にあるのが不幸であるのは目に見えている。
だから一つだけ交換条件を出した。それはカール子爵家を守るため。
「そのくらい大した内容ではない。必ず守ると約束しよう……。では、これにサインを」
婚約を解消するために必要な書類である。それに一筆、今の約束事をクロヴィスがさらりと付け足した。
イングラム国の王太子と聖女の婚約は、国中から注目を集めた祝い事でもあった。いつ結婚するのだと国民も気を揉んでいたところもある。
それが今、たった一枚の紙切れによってないものにされようとしている。
ウリヤナは表情を変えることなく、ただ奥歯を噛みしめた。彼の言ったことは事実である。今のウリヤナには聖なる力がない。
原因はわからないが心当たりはある。
彼と身体を重ねて熱を分け合ってしまった。婚約しているのだからと、彼に強引に迫られたところもあるが、それを許したのはウリヤナ自身だ。
身体を捧げれば彼の心をつなぎ留められるかもしれないと思ったのも認める。
だがその結果、逆に彼の心を失い力も失った。
「そのようですね」
「だからだよ。聖なる力を失った君とは結婚できない。だから婚約をなかったものとしたい」
微かな笑みを浮かべているクロヴィスを一発ぶん殴りたい気分である。いや、殴りたいのはあの時の感情に任せて身を捧げてしまったウリヤナ自身だ。
「承知しました……。ですが一つだけ約束していただきたいことがあります」
こうなってしまってはウリヤナの気持ち一つで解決するような問題ではない。婚約を続けた先に結婚があったとしても、彼の離れた心を手に入れるのは難しいだろう。結婚の先にあるのが不幸であるのは目に見えている。
だから一つだけ交換条件を出した。それはカール子爵家を守るため。
「そのくらい大した内容ではない。必ず守ると約束しよう……。では、これにサインを」
婚約を解消するために必要な書類である。それに一筆、今の約束事をクロヴィスがさらりと付け足した。
イングラム国の王太子と聖女の婚約は、国中から注目を集めた祝い事でもあった。いつ結婚するのだと国民も気を揉んでいたところもある。
それが今、たった一枚の紙切れによってないものにされようとしている。