あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
ローテーブルの上に置かれた紙に視線を走らせる。すでにクロヴィスのサインは入っているし、先ほどの約束事もクロヴィスの直筆で書かれている。
ウリヤナは小さく息を吐くと、側にいた文官よりペンを受け取った。
聖女となったウリヤナは、カール子爵令嬢としての身分は失っていた。聖女は聖女であって、聖女以外の者であってはならない。だから、この婚約が解消されたとしても、両親にはなんのお咎めもないはず。
ウリヤナがサインを終えた途端、クロヴィスは乱暴にそれを奪い取る。すぐさま文官に手渡し、議会に提出するようにと口にする。
これが議会で認められれば、お互いの手元に婚約解消通知書が届く。それが二人の婚約が解消された証になる。
「そうそう、ウリヤナ。私の新しい相手を紹介しよう。そうすれば、君も自分の気持ちに正直になれるのではないか?」
この男はとことんウリヤナとの関係を断ち切りたいようだ。むしろ、まだ未練があると自惚れているのだろうか。
興味ありませんと声に出せたらどれほど楽か。だが、その言葉すら飲み込む。それが、ここでうまくやっていく方法なのだ。彼に歯向かって機嫌を損ねられたら、婚約解消だけではすまない。
「コリーン。ここに来てくれ」
彼が口にした名は、ウリヤナもよく知っている。
コリーン・エイムズ、エイムズ子爵令嬢。同い年である彼女とは母親を通じて知り合い、何度も茶を飲んだ仲である。社交界デビューする前から、親しくしていた友人のうちの一人だ。
ウリヤナが聖女として神殿へ行かねばならないことを知って、たくさんの涙をこぼしながらも励ましてくれたのが彼女だった。
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