過去の名君は仮初の王に暴かれる

とある騎士(ロレシオ視点)

 話は、エルゼが王妃の部屋を訪れた少し前に遡る。
 エルゼの部屋を辞し、逃げ込むように入った部屋で、ロレシオは荒々しく息を吐いた。

「私の大事な人よ、私は、……どうすれば……っ」

 立てかけてある大きな肖像画に、ロレシオは縋る。
 肖像画に描かれているのは、プラチナブロンドの癖のない髪に、どこか遠くを見つめているようなサファイアブルーの瞳を持った若い女。――イヴァンカ・クラウンの肖像画である。
 サントロ帝国の負の歴史として、彼女の肖像画の大半は焼き捨てられたが、奇跡的に一枚だけ迷路のようなこの城の一角に残っていた。
 ロレシオはその肖像画を大事にこの部屋にしまった。――王妃の部屋と呼ばれる、この部屋に。

「イヴァンカ、様……ッ! どうか、教えてください……。この、愚かな私に……」

 数十年前に図書館で会った記憶のままの姿の、イヴァンカの肖像画に、ロレシオは問いかける。
 肖像画を見るたびに蘇るのは、彼が王宮騎士見習いだった頃の思い出だ。

『……みんな、本が好きな僕を馬鹿にするんです。騎士のくせに本を読むなんて、と』
『知識は、いつか貴方を救います。誰に何と言われようと、それでも学び続けようとする貴方を、私は尊敬しますよ』

 弱音を吐く14歳のロレシオの頭を、かつてのイヴァンカ・クラウンは決まって優しく撫でてくれた。サファイアブルーの瞳は優しく、いつもどこか寂しそうだった。
 イヴァンカは生まれた時からのひどい近視であまり目が見えていないと言っていたが、ロレシオはこの瞳に見つめられると、全てを見透かされているような、そんな気持ちにさせられてしまう。
 イヴァンカに会うたびに、ロレシオの胸は痛いほどに高鳴り、心の底からの笑顔を見てみたいと切望するのだった。

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