過去の名君は仮初の王に暴かれる
ロレシオはすぐにエルゼから体を離し、エルゼに背を向けた。エルゼは乱れた髪を整え、用意してあったタオルで自ら身体を清める。
二人は終始無言だった。
月明かりにぼんやりと照らされる部屋の中で、とあることに気づいたエルゼはハッとした。
「すみません。……シーツに血がついてしまいました」
「君が謝ることではない。それより、……痛まないか。初めてだったんだろう」
「……ええ、大丈夫ですわ」
エルゼは控えめに答えた。少なくとも、予期していたほどの痛みではない。
それにしても、奇妙な感じすらする。結婚したとはいえ、ロレシオと会ったのは今日で3度目。それまで貞淑な貴族令嬢としてふるまってきた彼女は、会って3度目の男に純潔を捧げたのだ。
今から遡って半日前。エルゼ・ラグベニューは王妃として、割れんばかりの拍手喝采と歓声の中ヴォルクレール城に迎えられた。
長らく独身を貫いていた名君ロレシオ・マディオがついに花嫁を迎えるというのだから、人々の熱狂ぶりは当然だった。
表向き微笑みながら人々の歓声に応えつつも、一方のエルゼの心の中は暗い。
国王ロレシオ・マディオは、本心からこの結婚を望んではいない。そして、エルゼもまた、とある理由からこの城には足を踏み入れたくなかった。
愛のない結婚をしてしまったという事実が、エルゼの気持ちをじわじわと蝕んでいく。
エルゼの服の支度が終わったころ、ロレシオはようやくエルゼに向き合った。
「……初夜の儀はこれで終わりだ。本当にすまない。私のような賤しい男が、本来は君のような美しい令嬢を娶る資格はないというのに」
ロレシオは目を伏せる。彼は、自身の血なまぐさい経歴を恥じているようだ。
二人は終始無言だった。
月明かりにぼんやりと照らされる部屋の中で、とあることに気づいたエルゼはハッとした。
「すみません。……シーツに血がついてしまいました」
「君が謝ることではない。それより、……痛まないか。初めてだったんだろう」
「……ええ、大丈夫ですわ」
エルゼは控えめに答えた。少なくとも、予期していたほどの痛みではない。
それにしても、奇妙な感じすらする。結婚したとはいえ、ロレシオと会ったのは今日で3度目。それまで貞淑な貴族令嬢としてふるまってきた彼女は、会って3度目の男に純潔を捧げたのだ。
今から遡って半日前。エルゼ・ラグベニューは王妃として、割れんばかりの拍手喝采と歓声の中ヴォルクレール城に迎えられた。
長らく独身を貫いていた名君ロレシオ・マディオがついに花嫁を迎えるというのだから、人々の熱狂ぶりは当然だった。
表向き微笑みながら人々の歓声に応えつつも、一方のエルゼの心の中は暗い。
国王ロレシオ・マディオは、本心からこの結婚を望んではいない。そして、エルゼもまた、とある理由からこの城には足を踏み入れたくなかった。
愛のない結婚をしてしまったという事実が、エルゼの気持ちをじわじわと蝕んでいく。
エルゼの服の支度が終わったころ、ロレシオはようやくエルゼに向き合った。
「……初夜の儀はこれで終わりだ。本当にすまない。私のような賤しい男が、本来は君のような美しい令嬢を娶る資格はないというのに」
ロレシオは目を伏せる。彼は、自身の血なまぐさい経歴を恥じているようだ。