過去の名君は仮初の王に暴かれる
「私が愛するのは、生涯イヴァンカ様だけと誓ったはずなのに……」
ロレシオが煮詰まった思いを重いため息にのせて深い息を吐いた、その時。
かたん。
物音がした。慌てて肖像画を部屋の隅に押しやり、顔をあげると、意外な人物がドアの前でしゃがんでいた。
「――ッ!? エルゼ!?」
「ご、ごめんなさい。本をお忘れになっていたので、届けに参ったのですが……」
確かに、エルゼの足元には先ほど渡されたはずの本や書類が落ちていた。どうやらエルゼの部屋を出て行った際に、全て置いていってしまったらしい。
それよりロレシオが気になったのは、エルゼの顔色の悪さだった。顔が紙のように白い。
「どうしたんだ! 顔色が悪いじゃないか」
「……陛下、入室を許可していただけませんか?」
普段のロレシオであれば、入室は許可しないだろう。しかし、エルゼの尋常ではない逼迫した様子に、気圧されるように頷いてしまう。
エルゼはしばらく部屋の中を見回した。
「ロレシオ様。この部屋は、いったいどうしたんですの? 大事な人のお部屋とおっしゃっていましたが……」
エルゼは、どうやらこの部屋に寵愛を受けている人物が住んでいると勘違いしていたらしい。
ロレシオは慌てた。妻のエルゼに対し、不貞を働くようなことをしたことは一度もない。しかし、それを釈明しようとすると、ロレシオが今は亡き王妃に道ならぬ恋をしていた事実を伝えなければならないだろう。――否、亡き人を未だに思い続けるこの愛自体が、そもそも不貞ではないのか?
ロレシオが煮詰まった思いを重いため息にのせて深い息を吐いた、その時。
かたん。
物音がした。慌てて肖像画を部屋の隅に押しやり、顔をあげると、意外な人物がドアの前でしゃがんでいた。
「――ッ!? エルゼ!?」
「ご、ごめんなさい。本をお忘れになっていたので、届けに参ったのですが……」
確かに、エルゼの足元には先ほど渡されたはずの本や書類が落ちていた。どうやらエルゼの部屋を出て行った際に、全て置いていってしまったらしい。
それよりロレシオが気になったのは、エルゼの顔色の悪さだった。顔が紙のように白い。
「どうしたんだ! 顔色が悪いじゃないか」
「……陛下、入室を許可していただけませんか?」
普段のロレシオであれば、入室は許可しないだろう。しかし、エルゼの尋常ではない逼迫した様子に、気圧されるように頷いてしまう。
エルゼはしばらく部屋の中を見回した。
「ロレシオ様。この部屋は、いったいどうしたんですの? 大事な人のお部屋とおっしゃっていましたが……」
エルゼは、どうやらこの部屋に寵愛を受けている人物が住んでいると勘違いしていたらしい。
ロレシオは慌てた。妻のエルゼに対し、不貞を働くようなことをしたことは一度もない。しかし、それを釈明しようとすると、ロレシオが今は亡き王妃に道ならぬ恋をしていた事実を伝えなければならないだろう。――否、亡き人を未だに思い続けるこの愛自体が、そもそも不貞ではないのか?