過去の名君は仮初の王に暴かれる
 やがてすべての引き出しの中身が詳らかになった時、驚きのあまり言葉を失っていたロレシオがようやく口を開いた。

「……君がこの複雑な城で一度も迷わなかったのも、前世の記憶があるからだったのか」
「はい」

 エルゼはしっかり頷く。しばらく呆然としていたロレシオはふらふらとエルゼに歩み寄り、急に手を取った。
 そして、前ぶれもなく彼女の足元に跪く。

「――イヴァンカ、様……ッ!!」

 かつての幼い騎士が、懐かしい名前でエルゼを呼んだ。

「お守りできず、……申し訳ございませんでした……っ! 私は、貴方に騎士の誓いをしたはずなのに。それなのに、貴女を守ることができなかった!」
「待ってください。陛下、お顔を上げて……! わたくしなんかに、頭を下げては……」

 エルゼは狼狽えてロレシオの肩に手を置く。しかし、ロレシオは低頭を止めない。

「貴女が守ろうとした国を、私は破壊しつくした。貴女がどれだけ苦心してこの国の立て直しに奔走しているのか、私は分かっていたはずなのに……ッ! あの忌まわしきマンフレートが貴女を処刑したと聞いたあの日から、復讐心だけでここまで上り詰めてしまった……。こんな愚かな私を、お許しください……」

 ようやく顔をあげ、許しを請うロレシオの青灰色の瞳は、苦悩と悔恨に充ちていた。ずっと自分を責めていたのだろう。

「ゆ、許すだなんて、そんな……」

 エルゼは激しく頭を振った。
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