過去の名君は仮初の王に暴かれる
 確かに、イヴァンカが守ろうと必死になったクラウン王朝を終わらせたのは謀反を起こしたロレシオだ。しかし、エルゼはロレシオに感謝こそすれ、まったく恨んではいなかった。

 エルゼがそのことを口にする前に、ロレシオが己の罪を告解するように言葉を吐いた。

「王宮での騎士見習いの期間を終え、地方に派遣されてからずっと、貴女にお仕えすることを一心に夢見て剣の腕を磨いて参りました。だからこそ、貴女が処刑されたと聞いた時、約束を違えてしまったことに、胸が張り裂けそうでした」

 ロレシオはイヴァンカが処刑された知らせを聞き、三日三晩泣き暮らした後に、エルゼを処刑したマンフレートに復讐を誓ったという。
 そして1年の時を経て、彼は謀反を起こす。王政の腐敗により苦しむ民衆を味方につけることは容易かった。結局、ロレシオが手を下すまでもなく、国王マンフレートとその一派は怒れる民衆によって捕らえられ、順に処刑されていった。

 しかし、ロレシオはその時になってようやく気付く。戦火に焼かれた大地を。戦に疲れた民草を。
 敬愛するイヴァンカ・クラウンが陰ながら必死で守り、建て直そうとしたこの国を、ロレシオはめちゃくちゃにしてしまったのだと。
 このことを恥じたロレシオは、一度は表舞台から消えようと試みた。しかし、国王不在となったサントロ王国は瞬く間に荒廃した。

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