過去の名君は仮初の王に暴かれる
 ついにエルゼが苦しそうにロレシオの腕を叩いた。ロレシオが咥内から指を抜いてやると、唾液が糸をひく。

「へ、陛下……音、いやぁ……」

 熱に浮かされたような潤んだ瞳で見つめられ、ロレシオは喉を鳴らす。

「君は本当に……、私を煽るのがうまい。理性があるほうだと思っていたんだが……」

 そう言うが早いが、ロレシオはエルゼの頤を掴み噛みつくようにキスをした。サファイアブルーの瞳が見開かれる。
 ロレシオは、エルゼの唇の柔らかさを確かめるように何度も角度を変えてキスをする。経験の少ないエルゼは、されるがままだ。

「……ッ!」

 小さな吐息を漏らしていた薄桃色の唇の隙間から、長い舌がぬるりと入りこみ、口内を蹂躙した。温かなものが内側を侵略する感覚に、エルゼはいいようもない悦楽を覚える。
 ロレシオの舌が歯列をなぞり、上顎をくすぐる。舌同士が絡み合った瞬間、未知の快感が脳髄に走る。まるでそれは麻薬のように、身体中を多幸感で満たしていく。
 エルゼはたまらず鼻にかかった吐息を漏らした。

「んっ……」

 エルゼのあえかな吐息を聞いたその途端、ロレシオはハッとした顔をして、さっと身を引いた。顔が赤い。

「……すまない、がっついてしまって」

 膝の上に置いていたエルゼをそっとソファに戻すと、ロレシオは顔を背けて額に手を当てた。

「君が相手だと、どうしても理性が働かなくなる。初夜もそうだった。本当は、初夜の儀などやるつもりはなかったのだ。ただ、君の眼を見たら理性がどこかに行ってしまって……」
「夫婦なのですから、このようなことは遠慮しなくてもいいんですよ」

 思わぬエルゼの一言に、ロレシオは一瞬驚いた顔をする。それから、戸惑いがちに口を開いた。
< 36 / 51 >

この作品をシェア

pagetop