過去の名君は仮初の王に暴かれる
 彼女がイヴァンカとして生を享け、死ぬまでの28年、彼女は瓦解しかけたサントロ帝国のために身を粉にして働いたはず。

 よく調べてみると、エルゼが考えた法律や予算案は、全てマンフレートの手柄とされていた。あれほど信頼していた夫は、イヴァンカをことごとく裏切っていたのだ。
 しかし、真実を語ろうにも、もはや過去のことだ。歴史の改ざんを、歴史家でもないただの令嬢が指摘したところで何になるだろう。なにより、証拠はどこにもない。

 その上、なによりエルゼが傷ついたのは、夫であるマンフレートは、イヴァンカを処刑した翌日には愛人のミニュエットとの婚儀を挙げていたという事実だった。まるで、処刑されたイヴァンカをあざ笑うかのように。

(うすうす気づいていたけれど、わたくしはマンフレートにちっとも愛されていなかったんだわ。なんて惨めな人生だったのかしら)

 マンフレートがイヴァンカに近づいた理由は、その血統と王位を狙ってのことだったのだ。その純真さゆえに人を疑うことを知らなかったイヴァンカは、狡猾なマンフレートに利用するだけ利用され、ついにその命まで無下に散らされた。

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