過去の名君は仮初の王に暴かれる
(皮肉なものね。忌み嫌われたイヴァンカ・クラウンが、王妃としてヴォルクレール城に帰ってきて、夫から愛されない人生を送ろうとしているなんて。まるで同じ人生を二度繰り返しているよう)

 初夜を終えたロレシオは、こちらに背を向けてすでに横になっている。すでに眠ってしまったのかもしれない。政略結婚で一緒になった女を抱いたことを後悔しながら。

 エルゼはすっかり眼が冴えてしまい、石造りの重厚な部屋を見回した。
 かつてマンフレートが使っていた国王の部屋は、持ち主がロレシオに変わったことですっかり様変わりしていた。それでも、この部屋にいると嫌でもエルゼの脳裏に封印した記憶がよみがえってくる。

『イヴァンカ、君を愛している』
『君だけが頼りなんだ、イヴァンカ』

 かつての夫からこの部屋で囁かれた愛は、全てまやかしだったのだ。

(マンフレートのあの言葉も、この言葉も、全部嘘だったんだわ……)

 結局、愚かなイヴァンカ・クラウンは国王マンフレートに横領の濡れ衣を着せられ、ようやく自分がマンフレートに愛されていないとはっきり自覚した。最期の最期まで、なんて愚かで惨めな人生だろう。

 エルゼはロレシオの邪魔にならないよう、広いベッドの端の方で丸くなり、声を殺して泣いた。この城は、辛い思い出が多すぎる。

 エルゼが浅い眠りについたのは、明け方過ぎのことだった。

 眠りに落ちる寸前、「すまない」と誰かが謝って、エルゼの眼からこぼれた涙を拭ってくれたような、そんな気がした。
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