好きになってよ、俺のこと。
神山くんに連れてこられたところは、誰もいない空き教室だった。
「亜実ちゃん、お昼まだでしょ? 一緒に食べよ」
「あ、うん」
ふたりきりになれるところって神山くんが言うから、変に身構えてしまったけど。
良かった。ここでお昼を一緒に食べるだけか。
机を挟んで、向かい合わせで座る私たち。
「うわぁ。亜実ちゃんの弁当、今日もめっちゃ美味そう」
私が持ってきたお弁当を机に広げると、目をキラキラと輝かせる神山くん。
「良かったら、食べる?」
「え、いいの? ありがとう。いただきます」
神山くんはおにぎりを一つ取り、幸せそうに頬張る。
「うめぇ。この卵焼きも、少し甘めなのがすごく好み」
自分が作ったものを、目の前で誰かにこんなにも美味しそうに食べてもらうのは、久しぶりかもしれない。
私の家は幼い頃にお母さんが亡くなり、今はお父さんと私の二人暮らしだ。
お父さんは仕事で朝早くに家を出て行き、帰りも深夜になる。
私が毎日お父さんのために夕飯を作り置きしておくと、いつも全部食べていてくれるけれど。
最近なかなか顔を合わすこともないからか、ご飯の感想も聞けずにいた。
だから、誰かにご飯を『美味しい』って食べてもらえることは、こんなにも嬉しいことなんだなとしみじみと感じてしまう。
「あれ。亜実ちゃん、食べないの?」
「え……って、んんっ」
口を開いたところに、突然ハンバーグが押し込まれる。
「美味しい?」
神山くんに聞かれるけれど、口の中がいっぱいなせいで話せない。
「恋人同士って、食べさせ合いとかするじゃない? ねぇ、もうひとつあげようか? そうだなあ、今度は……口移しで」
ニヤリと笑った神山くんがウインナーをひとつ咥えると、私に顔を近づけてくる。