好きになってよ、俺のこと。
「くそっ。このことがあの方に知られるのは、さすがに困るな。頼む神山、言わないで欲しい」
「それじゃあその代わりに、亜実ちゃんにはもう二度と近づかないって誓えるか?」
「ああ、約束するよ。中城さん、ごめん。悪かったよ」
謝ると、東くんは路地裏から姿を消した。
「あの、都輝くん。あの方、というのは?」
東くんとの話で何度か出てきた“ あの方 ”が気になった私は、都輝くんに聞いてみる。
「ああ、それはね。俺ら吸血鬼の家系の中にも階級があるんだけど、あの方というのはそのトップの人のことだよ。まぁ、吸血鬼の長みたいなものだね」
「へぇー」
「ちなみにそれは、俺の父親のことなんだけど。亜実ちゃんが吸血鬼のことに興味を持ってくれるなんて、嬉しいなぁ」
えっ! 吸血鬼のトップが父親って。都輝くんって、凄い家の息子なんじゃ……。
そういえば、前に茉世ちゃんが都輝くんは最強のヴァンパイアだとか言ってたことがあったけど、そういうことだったのか。
私はひとり、ウンウンと納得する。
「あっそうだ、都輝くん。さっき私のこと、助けてくれてありがとう」
もしあのとき都輝くんが来てくれてなかったら……今頃どうなっていたのだろう。
想像しただけでゾッとする。
ああ。都輝くんのおかげで助かった。
「いや。亜実ちゃんと昇降口で別れて、双子の妹と歩いてたら、何となく嫌な予感がして。急いで来てみたんだけど。亜実ちゃんに何もなくて、本当に良かっ、た……」
「えっ、ちょっと、都輝くん!?」
都輝くんの身体が突然ふらっとよろめき、そのまま都輝くんは倒れてしまった。
「都輝くん、都輝くん……っ」
顔色が悪い。どうしよう。
都輝くんの名前を呼び、身体を何度か揺するも反応がない。