ワインとチーズとバレエと教授【番外編】

真理子は当然のように
職員玄関を使い
スリッパを履いて
職員室へ向かった。

職員室の手前で事務員が

「お母様でしょうか?ご用件は?」

と聞くと

「担任の朝倉先生を出して!」

と真理子は鬼の形相で言った。
事務員は恐縮し

「少々お待ちください」

と頭を下げた。

そして真理子は来賓室に通され
お茶を出された。

10分後、担任の朝倉先生が
急いで、来賓実にいる真理子の
もとへ、早歩きでやってきた。

「理緒さんのお母さんですね!
初めまして、担任の朝倉です。
2年間 、お母様三者面談が叶わず
心配でしたが、この度、
娘さんの理緒さんが無事
大学に合格され、
本当におめでとうございます」

と朝倉先生が頭を下げると
真理子はバンとテーブルを叩いた。
そしてお茶がひっくり返った。

「誰がウチの娘に大学受験を
許可したっていうの!?」

「…え…?」

朝倉は、意味が分からず
ポカンとした。

「えっと…理緒さんが
大学進学を目指しているので
SPコースに編入され、
その後も成績も優秀でして…」

「女に大学は、いらないと
あれだけ言ったのに!
ウチの理緒に大学なんて
必要ないと言ってるのよ!
勝手に受験させないでちょうだい!」

「いや、お母さん…
理緒さんはもう、大学に
合格されまして…というか
お聞きになっていないと?」

「聞いてませんよそんなこと!
ウチの娘は高校を卒業したら
働かせるつもりだったんですから!」

「いや、お母さん!理緒さんは、
勉強を頑張られていますし
クラスでも常に5位以内に入り
学年ではほぼトップです!
この度のS大学法学部法律学科は
非常に難関でしたが、
理緒さんは、無事に合格しました…」

「だから、そんな大学
必要ないって言ってるでしょ!?
勝手に娘を受験させて
オタクの高校に娘なんか
預けなければよかったわ!」

その言葉を聞いて朝倉も
ヒートアップした。

「我が校は進学校でしてね!
我が校の理念はご存知でしょうか!?
理緒はさんは、
フィギュアスケートも
バイオリンも、
頑張られています!」

「だから、誰がそれを
やってって言ったのよ?」

担任の朝倉は、あ然とした。

理緒は、こんな家庭環境で
過ごしていたのだろうか…?

父親がいないことは
知っていたが
母親は保険外交員で
それなりに裕福な家と聞いていた。

フィギュアスケートも、
ヒザの奇形があるのに
あそこまでやり続け

バイオリンも熱心にやり
もう上級バイエルは終わり
今はパガニーニを
ひいていると聞いたー

真理子の態度を見た朝倉は
理緒があまりにも
不憫に思えた。

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