ワインとチーズとバレエと教授【番外編】
隙を与えない。
弱みも見せない。
目線もそらせない。
相手の目の上を見る。
そして感情は出さない。
言葉はゆっくりと。
沢村の顔はひきつった。
「うちの病院の名前を出して
復讐したいのか!?」
「いえいえ、とんでもありません
私の話を聞いてましたか?
示談にしてあげると言ってるのです。
刑事も民事も時間がかかりましす。
お互い時間のロスです。
もともと沢村先生がお支払いする
お金を頂くだけです。
先生、私も、これ以上
あなたに弄ばれるのは
不愉快なのですよ
女性としてー」
理緒の静かな声に凄みがあった。
沢村は観念したかのように
「分かった、刑事事件も民事も
無しということで、
示談金として、お前の請求した金を
支払ってやろう」
そう言いつつも、沢村は
負け惜しみか
「どうせ、弁護士を雇う金も
ないだろうしな」
と、理緒に言うと
「いやですわ先生、だからこそ
法テラスがあるのではないですか」
これには沢村も
返す言葉がなかったー
法テラスは、お金のない人でも
裁判が受けれるよう
お金を工面してくれる機関だ。
「今ここで、紙に書いてください」
理緒は、大学ノートを出した。
そして、示談金の内容を事細かく
沢村に書かせた。
「あとで弁護士に正書してもらい
内容証明郵便で
あなたの病院に送ります」
沢村は負けたように
頭を掻いた。
「それと、ノートに
追加して書いておいて下さい
毎月20万の手当を払うことが
今回の慰謝料に準ずると、
お金が振り込まれなかった場合
刑事事件と民事事件、両方で争う、
はい、付加えて」
「あぁ、分かってるよ!
金は一括で振り込んでやる!
全部で540万と家賃27ヶ月分だろ!
はした金だな!」
沢村は奮闘し、鼻を鳴らした。
「えぇ、はした金で
済ませてあげたのです
ありがたく思って下さい
それと、賠償金の請求は
通常、一括振込が基本ですよ?
ご存知ないのですか?」
沢村は、理緒に追い込みをかけられ
愕然としていた。
理緒は、残ったココアを
飲みほすと、刑事を呼んだ。
「沢村先生と話し合った結果
痴情のもつれということで
示談となりました、
この度は、お騒がせして
申し訳ありません
それと、ココア、
ご馳走様でした」
警察官はポカンとしていた。
「えっと…本当にそれで
良いのですか?」
「 はい、今後の沢村先生の
誠意にもよりますが…」
理緒は、沢村が、もし金を
支払わなかったときのための
保険として、この言葉を
付け加えた。
「いつでも刑事事件にするぞ」
というおどしだ。
理緒の計画通り
事は運んだ。
沢村は ペコペコ と
警察官に頭を下げていたが
帰り際、理緒と目があった。
理緒は
「私はやると決めたら
絶対やる」
沢村は、理緒の言葉と
理緒の冷徹な目に縮こまった
これが理緒の
最大の復讐の仕方だった。