ワインとチーズとバレエと教授【番外編】

理緒は素早く会計を済ませ
病院が呼んだタクシーで
N病院へ向かい
救急窓口で降ろしてもらった。
そこには、医師1名と
看護師3名が
待機していた。

「加納理緒さんですね?」

と名前を聞かれ、
理緒はうなずくと
紹介状とレントゲンが入った封筒を
医師に渡した。

「私は呼吸器内科の中島といいます
大丈夫です、加納さんの事は
こちらで確認しています
ストレッチャーに乗ってください
えとりあえず、
急性気管支喘息ということで
入院してもらえます
おそらく、重症肺炎ですが
とにかく今は病名は後回しで!」

そんなに大事なの…?
理緒はまだ状況が
理解できていない。

理緒はストレッチャーに乗せられ
7階に上がり、
呼吸器内科病棟の
個室に入れられ
すぐ、点滴に繋がれ
血液検査も同時に行なった。

そして1時間後、
主治医の中島が
病室にやってきた。

「加納さん、
一体どんな生活を
されていたのですか?
あなたはまだ21歳です

老人なら分かりますが、
たった3日で肺の7割が
水で浸かって
心臓を圧迫しています
呼吸は辛くなかったのですか?」

「…これぐらい、何とも…」

「これぐらいって
7割も肺の機能が
奪われているのですよ?」

「じゃあ、肺の水を
これから取るんですか?」

「いえ、注射でとっても
いっとき、楽になりますが
感染症を起こすリスクのほうが
高くなります
それよりも ステロイドを使って
つまり、パルス療法といいますが…
それで、炎症を抑え
肺の水が引いていくのを待ちます

今のあなたなら、
注射から細菌感染を起こし
敗血症になりかねません
敗血症の死亡率は70%以上です
とにかくあなたは
安静にしていなければなりません
入院期間は3ヶ月と見てください」

「… 3ヶ月? 私そんなに…!」

と、言葉を発すると
ゴホゴホ咳き込んだ。

「これから御両親に電話して
入院の承諾書と、印鑑を
持ってきてもらいたいのですが…」

そう中島医師がと言うと

「…あの母は、絶対に来ません…
入院が必要でしたら
私が自宅に行き、
印鑑を持ってきますので
ちょっと待っててください…」

と、理緒がベッドから
立ち上がろうとすると

「ダメす!ダメです!
あなたは外に出たら
命が危ない状態なんですよ?
自覚されてますか?
あと3日、治療が遅れたら
あなたは死んでたのですよ!?」

理緒は、自分がそんなに
重症だとは思わなかった。

「とにかく私から、お母さんには
こちらから電話をします
入院に必要な
パジャマやお箸やタオルなど
ご用意して頂きます
あとで、看護師から
詳しく説明しますから
とにかくあなたは
安静にしていてください」

理緒は静かにうなづいた。

それから理緒は大量の
ステロイドを注射され
24時間点滴をする
パルス療法を行うことになった。

中島がパルス療法の
説明をした。

「ステロイドという
強力な薬を投与します
ステロイドは、
炎症を徹底的に抑えます

あと、血液検査の結果
栄養失調もありますので
回復は遅めでしょう
あなたの身体は
そうとう弱ってます
あとは、免疫力との
戦いになります」

と中島医師に言われた。
そして、

もしこれで改善されなければ
敗血症を起こし
多臓器不全となり
死亡するリスクが
あることも説明されたが
理緒は、なんとなく、
それでもいいと思った。

そして理緒自身、
こんなに身体が
弱っていると思わなかった。

理緒は、もう、どこまで
疲れているのか
どこまで眠っていないのかさえ
分からなくなっていた。
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