妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
ふぅっと息をつき口を開く。
「……なんだと。侍女が付いていたはずだろう? 侍女はどうした。やられたのか?」
「それが……部屋にはいませんでした」
「そうか」
シルディアを守るために遠ざけたというのに、それが裏目に出ると誰が予想できるだろうか。
煮えたぎるような怒りと今すぐに飛び出したい気持ちを抱えながら頭を回す。
(この状況であれば侍女が手引きしたと考えるのが妥当だな)
奥歯を噛みしめ、自身の甘さを痛感する。
その弱さに漬け込んで、初代皇王ニエルドが顔を出す。
『だから言ったんだよ。鎖で繋いでしまえって。侍女と共に逃げ出したんじゃない?』
胸の中で囁く悪魔のような言葉を無視するも楽しげに笑う。
『つがいに逃げられたなんて、君は哀れだね』
そう決まったわけではないと心の中で反論しながら、騎士に問う。
「侍女が連れ去ったと騎士団は見立てているのか?」
「はい。交戦した跡がありませんでした」
「何か残っていたものは?」
「手を付けられていないタルトと中身の入っていない化粧箱がワゴンに乗っていました」
「そうか」
騎士の答えに疑問が募る。
(なぜ中身がない? 化粧直しをするための化粧箱じゃないのか? ……中身をぶちまけた可能性があるな)
考え得る可能性にオデルは騎士へと質問を投げかける。
「床に何か落ちていなかったか?」
「窓のサッシにヘアピンが一本落ちていましたが、つがい様が落とした物だろうと結論が……」
「ほぉ?」
思い込みとは厄介なものだ。
ヘアピン一本だけを見ればシルディアのものだと勘違いしてもおかしくはない。
しかし、オデルは知っていた。
シルディアのヘアアレンジにヘアピンが一切使われていないことを。