妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「きゃっ!? あ、ありがとう。ヴィーニャ」
「いえ」

 抱き留められていたはずの手がいつの間にか離されており、シルディアはヴィーニャ達の元へと飛ばされてしまった。
 吹き飛ばされたシルディアはヴィーニャに受け止められる。
 オデルから預かったマントを羽織り直しながらシルディアは立ち上がった。

「いったい何が……」
「忘れもしません。これは竜の怒りです」

 青い顔をした男がぽつりと呟く。

(これが竜の怒り……?)

 初代竜の王の周りを視認できるほどの風がとぐろを巻いている。
 轟々と凄まじい音を立てる突風は、遠い国で竜巻と呼ばれるものではないだろうか。
 まるで竜の怒りを買ったようなその威力は、地下の壁をえぐるほどだ。
 天井にまで届く竜巻に、シルディアは焦りを隠せない。

「ちょ、っちょっと待って! こんな場所で、暴れられたら――!!」

 シルディア達が一瞬で突風という竜の息吹に丸呑みされた。
 岩々が転がり落ちるような衝撃音に思わず目を閉じる。
 そして、風が止んだとシルディアが目を開ければ、そこはもう地下ではなく、頭上で月がきらめいていた。

「一瞬で後宮が塵と化した」

 呆然と呟いた男に、シルディアはやっとここが後宮だと知った。
 竜巻に包まれたオデルの顔は全く見えず、感じるのは殺気だけだ。

「なんて威力……」

 目の当たりにした圧倒的な力量差に、ヴィーニャが床へとへたり込む。
 見事に崩れ落ちた後宮だった物の残骸を見れば戦意喪失してもおかしくはない。

「うぇぇぇぇええい!? なんだこりゃあ!?」

 少し遠くの方で見張りの声がする。
 ヴィーニャに昏倒させられていたのだろうが、今の大きな衝撃で目が覚めたのだろう。

(どうして見張りは生き埋めになっていないの……?)

 なぜだと考える暇すら与えられず、段々と大きくなる竜巻にシルディアは背に薄い刃物を突き付けられたような感覚に囚われる。
 へたり込んだヴィーニャを巻き込む寸前、一瞬だけ大きくなった竜巻が上階の瓦礫を吹き飛ばした。
 ヴィーニャを巻き込むことなく上空へ大きく広がった竜巻に、シルディアは違和感を覚えた。

(もしかして、オデルはまだ抗ってる……?)

 シルディアはヴィーニャを後ろへと下がらせて、自身が前へ出た。
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