妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
シルディアが目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。
ヴィーニャが手入れを施してくれたのか、地下で汚れた肌は綺麗に磨かれている。
すでに肌触りのいいネグリジェに着替えており、下着姿を晒さずに済みそうだとシルディアは寝ぼけた頭で考えた。
温かな布団に包まれ、シルディアが幸せを噛みしめていると、隣からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
目を向ければ優しい顔でこちらを見るオデルがいた。
「お、オデル。起きてたなら声かけてよ」
「ごめんごめん。ついシルディアが可愛くて」
「理由になっていないと思う。……まぁいいわ。わたしどれぐらい寝てたの?」
「二時間も経っていないぞ。もっと寝ていてもいいぐらいだ」
「そう」
シルディアは自身の体に回るオデルの手を取り握りしめる。
「どうした? 寂しくなったのか?」
「そうじゃなくて、今日の誘拐の件」
「あぁ。何が知りたい?」
「竜の王には逆鱗があって、それが弱点だって言ってた」
「あ? あー……」
「わたしはまた、オデルから聞けなかったの」
目を伏せながら言えば、オデルは困ったように笑った。
「知りたい?」
「もちろん」
「仕方ないな」
「へっ」
握った手をそのままに、オデルがシルディアに馬乗りになる。
目を見開いたシルディアだったが、オデルの楽しそうな瞳に抗議する気がなくなってしまった。
握ったシルディアの手をオデルは自身の喉元へ持っていく。
喉元に表れた鱗に、シルディアは驚きを隠せない。
今まで何の違和感もなかった喉元に、大きな黒色の鱗が現れると誰が思うだろうか。
「わぁ。本当に鱗なのね……!?」
「喜んでいるところ悪いけど」
「ん?」
一心不乱に逆鱗を触るシルディアを見つめる赤い瞳にはいつの間にか熱が籠っていた。
「俺以外の誰も知らない秘密なんだ」
「え? そんなもの、わたしに教えてよかったの?」
「俺から逃げたくなった時のために知らせてなかったんだ。だが、シルディアが知りたいと強請るからな。答えないわけにいかないだろ?」
頬に口づけを落とされ、挑戦的な笑みを向けられる。
「皇王の弱点を知ったんだ。もうどう足掻いても逃げられないな?」
その言葉に、シルディアはまた気遣われていたのだと悟った。
優しいオデルに報いたくて、シルディアは彼の首へ腕を回し、余裕たっぷりに微笑んで見せた。
「望むところよ」
たまらないなと呟いたオデルの唇が、シルディアの唇と重なった。
二度目の口づけは、お互いの存在を確かめ合うような、優しいキスだった。