妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「ごめんなさい。ほら、オデルも」
「……悪い。詫びにそこにある商品全て貰おう」
「は……? 全部って、持ち帰るにしても相当な量だぞ?」
「別に構わない」
「そうか。分かった」
「持ち帰り用に包んでくれ」
「あぁ。まいど」
目の前に市場の天蓋の上まで積み上がった大量の箱に、シルディアはくらりとめまいがしそうだ。
オデルは驚く様子もなくその大量の箱に手をかざす。
すると一瞬で大量にあったはずの箱が消えた。
(魔法ってこんなことも出来るの?)
目をぱちくりさせているシルディアをよそに、オデルは商人と話を続ける。
「で、いくらだ?」
「へ? あ、はい。ガルズ銀貨十枚です」
「安いな。……すまない。今これしか手持ちがない。釣りはいらん」
オデルは懐からガルズ金貨一枚を取り出して商人に差し出した。
目が飛び出そうなほど驚いた商人は震えた声で呟く。
「こんな大金を頂くわけには……」
「釣りが出せるのか?」
「それは……。いえ、ちょっと待って下さい」
「時間が惜しい。釣りはいらん」
「あ! ちょっと!」
呼び止める商人を全く気にせず、オデルは何事もなかったかのようにシルディアの腰を抱いて進む。
市場を通り過ぎたオデルは困惑するシルディアに気が付きふっと笑った。
「どうした?」
「色々聞きたいことはあるんだけど……。まずさっき買ったのどこにやったの?」
「城の厨房に送っておいた。使用人達で分けて食べるよう言伝もつけてな」
「無駄にならなかったのならよかった。妙に手慣れていたけど、よくやっていたの?」
「まぁな」
得意げに笑うオデルが眩しい。
シルディアがオデルを羨ましそうに見ていると、視線に気が付いた彼が首を傾げた。
「シルディア?」
「……えっと、金貨ってそんなに大金なのかなって……」
しどろもどろに口にした言葉にオデルは納得したようで、軽く笑った。
「シルディアは生粋の貴族だからな」
「仕方ないでしょ。国政に携わることなんて出来なかったんだから」
「それもそうか。硬貨の価値が知りたいのか?」
「そうね」
「慎ましく暮らせば、金貨一枚で夫婦が一年は働かずに済む」
オデルの言葉にシルディアは目を見開いた。
先ほど商人に支払った金額の重さがやっと理解できたからだ。
「そ、それは……払い過ぎたんじゃ……」
「迷惑料込みで支払ったんだ。大丈夫だろ」
「そ、そうなの……?」
「あぁ。それに金を持っている人間がチップをやらねば、経済が回らないからな」
「そういうもの?」
「そういうものだ」
「そっか」
世間に疎いシルディアはオデルの言葉を信じ、彼に尊敬の眼差しを向ける。
城下はシルディアにとって未知の世界だ。
親が子に教えるように常識を教えてくれるオデルは、シルディアにとって尊敬の対象となるのは当たり前のことだろう。
シルディアのきらきらとした視線に、オデルが目を逸らす。
オデルが目を向けた先にあったのは、宝石店だ。
「シルディア。俺に贈り物をさせてくれないか?」
「へ? 毎日のようにドレスが増えてるの、わたし知ってるんだからね! これ以上何を増やすのよ……」
「減るもんじゃないし、いいだろ」
そう言ってオデルはシルディアの腰を抱え、宝石店へと足を向けた。