妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 シルディアの呟きに店主だと思われる老婦人がカウンターの奥で顔を上げた。
 指で眼鏡を押し上げた老婦人は珍しい紫色の目をぱちくりさせ、まあまあと嬉しそうに破顔した。
 はずみで長い白髪交じりの灰桜色の髪が揺れた。

「誰かと思えば、久しい顔じゃないか。元気だったかい?」

 顔なじみに向けた柔らかな口調に、オデルがこの店に訪れたことがあるのだと知った。

(こんな可愛らしいお店にオデルが……?)

 シルディアの胸にもやもやとした感情が浮かび上がる。
 女性が好む内装の店は、男性一人では入り難いだろう。

(誰かと来たことがある? こんな所にくるのは女性とでしかありえない……)

 悶々と考え込んでいれば、オデルと老婦人がカウンター越しに話を始めた。

「おばば。この店でこの娘に合う宝石を見せてくれ」
「おや? あんたが誰かを連れてくるなんて初めてじゃないか」

 女性の影を感じていたシルディアだったが、老婦人の言葉にもやもやとした気持ちが晴れ渡る。

(なんだ。杞憂だったのね)
「あぁ。初めて連れてくるからな。シルディア」

 手招きされオデルへと近づけば、腰を抱かれ引き寄せられる。
 オデルの様子に老婦人は驚いたように眼鏡の奥で目を丸くさせた。

「俺の好い人だ」
「! オデル、いきなりなにを……」
「赤くなってかーわい」

 オデルがいたずらな笑みを向けられ、シルディアは全身が沸騰するように熱くなってしまう。
 そんなシルディアとオデルを交互に見た老婦人は、孫を見るような顔で目に涙を浮かべた。

「あんなにやさぐれてた坊やが立派になったもんだね」
「その話はいいだろ」
「ふっ。そうかい。彼女に似合う宝石だったね。お嬢さんはどんな宝石が好きだい?」

 唐突に話を振られたシルディアは首を傾げる。
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