妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 オデルにくすくすと笑われ、シルディアはむっと彼を見上げた。

「なによ」
「いや? 可愛いなと思って」
「オデルはそればっかりね」
「事実だからな」
「そんな所で立っていないで早くこっちに入りな」
「あぁ」

 シルディアとオデルは奥の部屋へと進み、どっしりとしたソファーに腰かける。
 老婦人は宝石を持って来ると言って、ソファーの正面に見える扉から奥の部屋へと消えた。
 二人きりになった部屋で、シルディアは疑問をオデルへと投げかける。

「やさぐれてたって?」
「え、今それ聞く?」
「気になるもの」

 じっと見つめるシルディアに、オデルが折れた。
 聞いて楽しいものじゃないぞと前置きしてオデルは話を始める。

「十代の頃に初めて城下に来た時、浮浪者に絡まれてな。返り討ちにしてたら次々に仲間を呼ばれた」
「オデルに挑むなんて命知らずはどこにでもいるのね」
「今なら挑まれることはないだろうな。だが、その頃は魔力の制御が上手くなかったから返り討ちにしたと言っても、相打ちみたいなものだ」
「怪我は大丈夫だったの?」
「あぁ。その時おばばが助けてくれたからな。ああ見えておばばは聖なる力の持ち主でね。治癒魔法師と呼ばれる稀有な人材なんだ。若い頃は聖女なんて呼ばれていたな」
「治癒魔法ってそんなに珍しいのね」

 オデルの昔話はあっさり終わり、治癒魔法に話題が移ってしまった。
 幼少期の話を期待していたシルディアは少し眉を下げた。
 その様子を見たオデルはくすりと笑う。そして隣に座るシルディアの腰に手を回し、自身の元へ引き寄せた。

「おばばは皇国唯一の治癒魔法師だったんだ」
「だった……? どうして過去形なの?」
「そりゃ、今はお嬢さんも聖なる力を有しているからだよ」

 扉の軋む音がして、トレイを持った老婦人が戻ってきた。
 ローテーブルを挟んだ向かい側のソファーに座った老婦人は、トレイをローテーブルに置く。
 トレイに置かれた色とりどりの宝石よりも、自分にあるとされるものにシルディアの興味は向いた。
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