妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「聖なる力って……?」
「おやおや。説明もせずに連れてきたのかい?」
「説明するより実際見た方が早いからな」
「皇族ってのは本当人使いの荒い」
「へ? 今皇族って……」

 困惑するシルディアに優しい目を向ける老婦人が改めてと頭を下げた。

「元聖女のアリスと申します。皇后陛下」

 驚きのあまり声のでないシルディアはせわしなくオデルと老婦人――アリスを見比べる。
 オデルは目を細めシルディアを安心させるように腰を撫でた。

「聖なる力は神力(じんりき)と呼ばれ、万物を見通し癒しを与えると言われている。俺もこの力で見破られたものだ。危険視する者もいるが、聖なる力は人を傷つけることはできないようでな」
「なるほど……? でも、まだわたしは皇后ではないわ」
「あと一か月もしたら皇后なんだ。誤差だろ」
「誤差って……」

 呆れるシルディアにアリスが小首を傾げる。

「お嬢さんは神話の時代に竜王を正気に戻した女神は知っているかい?」
「えっと、はい。正気を失った竜王によって滅びる寸前だった国に突如現れた女神、よね?」
「そうだよ。女神は自らを犠牲にして竜王が二度と暴走しないよう華を与え、国を蘇らせた後に姿を隠したと言われている。皇国の民なら幼少の頃から飽きるほど聞かされる童話だね」
「どこにでもそういう民話はあるものね」

 説明をしたアリスに、シルディアは故郷でも同じように語り継がれる童話があると同意する。
 情報を付け加えるようにオデルが口を開いた。

「この国にはごく稀に女神の力……神力を持つ女性が現れる。聖女と呼ばれ崇められるんだが、神の気まぐれか現れるのは数年に一人だったり百年に一人だったりと様々でな」
「本当に稀な存在なのね」
「あぁ。それに、どれだけ探しても聖女は一人しか見つからなかった。それ故に聖女を巡って争いが絶たなかったこともあったからな、今は見つけ次第城で保護が原則となっている」
「え、でもアリスさんは神力を持っているのよね? わたしが神力を持っていたら一人ではなくなるわ」
「あたしはもう神力がほんの僅かしかないんだよ。それこそお嬢さんに使い方を教えるぐらいの、ね」
「神力は無くなってしまうものなの?」
「いや? 初めての症例だな」

 数千年以上続くガルズアース皇国で初めての事態。
 それは悩みの種以外のなにものでもないだろう。
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