妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 目の前の黒曜石がふわりと浮き上がる。
 アリスが魔法を使っているのだろう。
 黒曜石の周りにキラキラとした粒が集まり、形を作っていく。
 皇国の名産品の簪になっていく様子を食い入るように見入ってしまった。
 しばらくするとマジェステ型の簪が出来上がった。
 黒曜石が際立つようにシルバーの細工で作られた簪は、角度によって美しく気品の感じられる物に仕上がっていた。

「綺麗……」
「土の魔法だな」
「土……?」
「土の魔法は鉱物や鉱石を加工するのが得意なんだ。上級になれば加工で使う素材を魔法で作ることができる。今使ってるのが上級魔法だな」
「神力と魔法って両立できるものなのね」
「神力は癒しの力さ。逆に言えば、自分の身すら守れないひ弱な力だよ。魔法が使えなけりゃすぐにかどわかされる」

 表情を消したような声色に、シルディアはごくりと息を呑む。
 紫の瞳には生半可な生は送っていないと言わんばかりの凄みがあった。
 アリスの眼力にシルディアが固まっていると、ふっと彼女の目じりが下がる。

「そんなに驚かすつもりじゃなかったんだがね。さっ、神力の使い方を教えようか」
「お願いします。でも、わたし妖法も使えなかったし、魔法も神力だって使えるかどうか……」
「心配しなくてもシルディアは一度、神力を使ったことがあるぞ」
「へ?」

 オデルの言葉に、間の抜けた声がシルディアの小さな口から洩れた。
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