妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)

「さて。シルディア」

 誰もが見惚れる笑顔を浮かべたオデルが立ち上がり、シルディアの手を取る。

「こんなに着飾って、本当に俺を喜ばせたかっただけ?」
「っ!?」
「そんなに外に出たい? でも俺は、可愛い君を他人の目に触れさせたくないな」
「……全部お見通しってわけね」
「シルディアは可愛いね。わかりやすくて」
「それは褒められている気がしないわ」
「うん、褒めてないからね」

 にっこりと笑うオデルが、シルディアの背に手を這わす。
 ビクリと大きく肩を揺らしたシルディアの反応に満足したのか、彼の手はさらに背をなぞる。

「あ、本当だ。妖精姫の体形に合わせてたのか。少し胸周りがきついな」
「!?」
「大丈夫。明日には全てシルディアの体形に合ったドレスが並んでるよ」
「は、え、待って? それって針子を一晩中働かせるってこと……?」
「? 問題が?」
「大ありよ!! そんな、つがいでもないわたしなんかのために寝る間も惜しんでやらなくてもいいの!」
「今、なんて言った? 『わたしなんか』?」

 背を這っていた手がシルディアの腕を掴む。

「痛っ」

 握り込まれた腕が悲鳴を上げる。
 痛みをこらえ、オデルの顔を見上げた瞬間。
 シルディアは室内の温度が下がったような錯覚に陥った。
 さながら蛇に睨まれた蛙だ。
 室内は暖炉のお陰で温かいはずだというのに、シルディアの足元から寒気が上ってくる。

「俺の大切なシルディアのことを悪く言うのは、たとえ本人でも許さない」
「そ、そんな理不尽な……」
「じゃあもっと自信を持って」
「わたしに、誇れるものなんて、なにも……」
「シルディアは優しい女の子だよ」

 言い切ったオデルを見れば、全てを凍らせてしまいそうな視線はもうなかった。

「王族なら城の針子に対して、一晩中働かなくてもいいって言ったりしない。それは、シルディアが優しいってことだよ」
「誰だって不眠不休で働くのは嫌よ」
「貴い身分の人間はそんなこと気にしない。心優しいシルディアのいいところ」
「……そんなこと、初めて言われたわ」
「王族らしくないって言われてた?」
「そうね」

 シルディアの腕を掴んでいた手を離したオデルが、彼女の頭を撫でる。
 オデルは目を細めわが子を愛おしそうに眺めるような目をして、口を開く。

「俺はそんな王族らしくないシルディアを欲したんだ」
「わたしとオデル、会った回数は数回じゃない」
「その数回で俺を虜にしたのはシルディアだろ?」
「冗談……」

 吸い込まれそうなほど綺麗な赤い瞳に、シルディアは息を呑んだ。
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