妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「触るのはもうおしまい?」
「っ!?」

 からかうような声が聞こえた。
 腕に力が籠められ、引き寄せられる。
 背中からオデルのぬくもりが伝わり、急に距離の近さを自覚してしまった。
 触れ合う背中から早鐘を打つ鼓動に気付かれてしまいそうだ。

「おはよう」
「お、おはよう。いつから起きていたの……?」
「流石に顔を触られたら起きるよ」
「う、ごめんなさい」
「もっと触ってくれてもよかったんだよ? 楽しそうに触るシルディアをもっと見たかったな」
「……意地悪だわ」
「ふっ。可愛いなぁ。俺の白百合は」
「……ちゃんと寝れた?」

 シルディアはオデルの言葉を無視し、問いかける。
 抱きしめられながら寝た成果は彼にしか分からないことだ。

「うん。初めて熟睡というものをした気がするよ。頭がすっきりしてる」
「! よかった!」
「ありがとう。シルディア」
「元はと言えば、わたしにつがいとしての自覚がないから、オデルを蝕む激痛が消えないのよ。恨まれこそすれ、お礼なんて……」
「俺はシルディアを恨んだりしないよ。恨むとすれば、元凶である竜の王かな」
「そんな罰当たりな……」

 元気づけるための冗談だろうとシルディアは軽やかに笑った。
 反応に満足したのか、オデルはシルディアから手を離し起き上がる。
 続いて起き上がったシルディアに、彼は気の抜けた笑みを向けた。

「そろそろ起きようか。もう昼過ぎぐらいにはなってそうだし、お腹空いたでしょ?」
「だいじょう――」

 言い切る前に、きゅるると可愛らしい音が鳴った。
 自身のお腹から聞こえた音に、シルディアは体中から火が出るかと錯覚する。
 彼女の腹の虫に肩を揺らし笑ったオデルから視線を逸らすが、逃がさないとばかりに手を取られリビングルームへとエスコートされた。
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