妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 好意よりも重い愛を向けられる理由に、心当たりは一つだけだ。
 それは――

「! つがい!」

 じっと見つめられてしまえば否が応でも理解できた。

「正解。シルディアは賢いね」
「今まで散々言われていたのに全く気が付かなかったわ」
「少し抜けているところも可愛い」

 正解に辿り着いた褒美と言わんばかりに、頬に口づけを落とされる。
 慣れてしまった軽いスキンシップ。
 止める必要性を感じず放置しているが、日に日にスキンシップが激しくなっている気がする。

「はいはい」

 呆れた口調でやり過ごし、確証を得るために歴史書をめくった。
 シルディアは視線を落とし感嘆を呟く。

「皇妃がつがいだったかも記されているのね」
「うん。竜の王にとっては大事なことだからね」
「そのおかげで予測は立てやすいのだから、先人には感謝ね。天命を全うした竜の王もそれなりにいるみたい。でも、つがいを見つけられた竜の王はその半分以下ね」
「よく気付いたね」

 優しげに細められた目がくすぐったくて、シルディアはごまかすように早口に喋り始める。

「歴史書を読めば誰だって分かることよ。つがいは竜の王のためのもの? それとも、本当に魔力暴走を抑えるためだけの? ……うん。まだなにかありそうね。つがいにも何か選定基準が――きゃっ!? ちょっと! いきなり抱えないで!」
「シルディア、そんな暴れないで?」

 オデルはシルディアを膝の上に乗せることが好きなようで、事あるごとに抱き上げられる。
 スキンシップには慣れてきたとはいえ、今、このタイミングでするのはどうなんだとシルディアは怒りを隠さなかった。
 シルディアは薄い空色の瞳を吊り上げる。

「断りもなしに膝に乗せるからでしょう!? せっかく何か思いつきそうだったのに……。竜の王の……」

 言いかけたと同時に、シルディアは背筋が凍った音を聞いた。
 なぜなら先程まで優しげに細められていたはずの彼の瞳にはどす黒い闇が宿っていたからだ。
 オデルが初めて見せた感情。それは、深く淀んだ闇に混じるのは憎悪だろうか。
 冷え切った心に温かな風を送り込んでくれる彼から向けられたことのない感情。
 それは息を忘れるほどの衝撃をシルディアに与えた。
 どうやらシルディアは踏んではいけない地雷を踏み抜いてしまったようだ。

「俺が目の前にいるのにさっきから竜の王竜の王って悋気を抱いてしまいそうだよ」
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