妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 少し考えたシルディアは心当たりへと案内する。
 荒い呼吸の男の子を抱き上げた皇王は、神妙な顔をしてシルディアの後に続く。
 シルディアが選んだのは、庭園の奥の奥にこじんまりと佇む温室だ。
 扉を開け、色々な種類の植物が植えられた温室の中を迷わずに進む。
 外から中が見えないよう周りを囲うように背の高い植物植えられていると気が付いたのだろう。皇王の眉に深い皺が刻まれている。

「ここは……?」
「わたしの温室です。ここなら誰も来ません」
「庭師が来るのでは?」
「いいえ。わたしが全て育てていますので、庭師は来ません。安心してください」

 この場所はシルディアとフロージェ、そして王妃しか知らない場所だ。
 外に出られないシルディアを哀れんだ王妃が作らせた場所である。

「こちらをお好きに使ってください。横になられた方がいいかと思いますので」
「……あぁ。ありがたく使わせてもらおう」

 皇王は青い顔をしている皇太子をベンチに降ろした。
 彼の意識は闇に沈んでいるようで、目を閉じている。
 明らかに夜会に参加できる体調ではない。
 会場で体調が悪そうだという話は聞かなかったことから、何かしらの手段でごまかしていると考えられる。

「失礼を承知の上でお聞きしたいことがあります」
「なにかな?」
「どうして夜会の主役が抜け出しても周りに気が付かれていないのですか?」

 王妃も会場に皇王と皇太子がいると認識していた。しかし、実際はその場に皇王も皇太子もいなかった。
 それはなぜなのか。
 聞いた理由は、単純な好奇心だ。
 だが、困ったように笑う皇王に聞いてはいけないものだったのだと悟り、すぐさま頭を下げた。

「申し訳ありません。忘れてください」
「いや、気にしなくて構わないよ。君は気が付いていないんだね」
「? 何にですか?」
「妖精姫は一人っ子だったかな?」

 脈絡のない言葉に内心首を傾げつつも頷いた。

「はい。そうです」
「……なるほど。では、フロージェ姫。この子の面倒を見ていてくれないかい?」
「は……い?」
「僕はそろそろ会場に戻らないといけないからね。頼んだよ」

 そう言い残し皇王は温室から出て行ってしまった。
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