妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「! シルディア!」
「ん……」

 小さなうめき声と共にうっすらと目を開けたシルディアを抱きしめようとして、理性を働かせる。
 オデルの奇妙な行動に困惑を宿す青空のような瞳に、安心してほしくて笑いかけた。

「よかった。シルディア! ごめんね」

 返事をしようと口を開けたシルディアだったが、水分の足りてない喉では声が出なかったのだろう。
 彼女を優しく抱き起し、用意していた水を差し出す。
 グラスを受け取り、ゆっくりと水を飲み込んだ彼女が改めてオデルに目を向けた。

「なんか、今日は大人しいね……?」
「一週間も目を覚まさなかった女の子に無理を強いるような、不誠実な男には成り下がりたくないからね」
「えっ。わたし、一週間も寝ていたの?」
「うん。そうだよ」
「どうりで体が重いと思った……」
「ゆっくり、リハビリしていこう。最初は重湯から、ね?」
「……そうね」

 シルディアが寂しげに笑う。

(そんな顔をさせたいわけではないんだが……)

 オデルは真剣な顔で、シルディアに向き直った。

「シルディアを危険に晒すつもりはなかったんだ。すまない」
「……言うことはそれだけ?」

 試すような視線にオデルは力なく笑う。

「これからはできる範囲でシルディアの希望を聞くよ」
「聞くだけ?」
「ちゃんと要望を叶える。譲歩できないところは話し合う。約束する」
「うん。強硬手段に出る前に気付いてくれたらもっと良かったんだけど……」
「あはは……。ごめん」
「でも、気付いてくれたから、それでいい」

 シルディアがオデルの手を取った。
 彼女からの初めての触れ合いにオデルは目を見開く。

「もう二度と、しないで。夫婦は話し合って、お互いを尊重し合うものよ」

 手を握り返し、オデルは頷いた。

「そうだね。もうしない」
「約束だからね!」
「もちろん」
「なら許す」
「ありがとう。やっぱり、シルディアが一番だ。愛してる」

 思わず口に出てしまった言葉に、シルディアは顔を真っ赤に染めた。
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