妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「用意は済んだから入ってもいいわよ。オデル」
「ごめんね。どうしても渡したい物が――」

 シルディアと目が合った瞬間、オデルは石のように固まった。
 そんなオデルの反応を訝しげに思いながら、シルディアは彼を眺める。

 端的に表せば、絵画から抜け出してきたかと錯覚する美貌、だろう。

 漆黒の軍服。それは皇族のみが袖を通すことの許された代物だ。
 元の顔の良さも相まって、目に入れた女性が卒倒してしまいそうなほどの色気を醸し出している。
 首元を彩るネクタイと左肩に固定されたマントは、図らずもシルディアのドレスと同じ色をしていた。

 沈黙が続き、いたたまれなくなったシルディアが拗ねた口調で呟く。

「似合わないと思うのなら、そう言ってくれたらいいのよ?」
「! いや、そうじゃない。似合ってる。すごく。薔薇の精が現れたのかと思ったよ」

 我に返ったオデルは、シルディアの足元にかしずいて手を取った。
 そして、シルディアの腕を覆う真紅の手袋を外す。

「なにを……?」

 せっかくはめた手袋を脱がされ首を傾げる。
 きょとんと目を丸くするシルディアの掌に、微笑を浮かべたオデルが口づける。
 口づけた掌を自身の頬に擦り付け、オデルは上目遣いにシルディアを見上げた。

「すごく似合っているんだけどね~。うん、俺の瞳の色を選んだら必然的に薔薇を模したようになるのは仕方ないとは理解しているんだよ? でもなぁ、薔薇かぁ」
「? 薔薇が不服?」
「俺の象徴華は白百合だからね。薔薇は、初代皇王の象徴華なんだ」
「え。……まさか」
「うん。着替えて欲しい」

 オデルの無慈悲な提案に、流石のヴィーニャも頭を抱えている。
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