妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 心底呆れてしまったシルディアは、ため息交じりに肩を落とした。

「象徴華の話はもう少し早く聞きたかったわね」
「ごめんね」
「夜会まであまり時間がないのよ。もう……」
「文句言っても着替えようとしてくれるなんて、シルディアはやっぱり優しいね」
「時間がないのだから、オデルにも手伝ってもらうわよ」
「え?」
「当たり前でしょう? 言い出しっぺが手伝わないで、ヴィーニャにだけ負担をかけるつもり?」
「あはっ。そうだね。俺の気に入るドレスを持ってくればいいんだね」
「話が早くて助かるわ」

 もとよりドレスルームを作り、ドレスを購入したのはオデルなのだ。
 彼が一番詳しいのだから、任せても問題ないだろう。

「ヴィーニャ。せっかく用意してもらって申し訳ないのだけれど……」
「心得ております。まずは衝立を持ってまいります」
「よろしくね」

 ヴィーニャが衝立を取りに行き、一人になったシルディアは顎に手を当て考え込む。

(オデルがわたしのことを白百合と呼んだ時点で気が付くべきだったわ。皇族なのだから、象徴華があるに決まっているじゃない)

 象徴華とは、皇妃ひいてはつがいに刻まれる、その代の皇王を表す花のことだ。
 上皇夫妻の象徴華は椿だと習った。

(とすると、つがいの証は象徴華ということになるのだけど……。上皇后陛下の背中には椿の刺青があるってこと、よね?)
「お待たせ。持って来たよ」

 白色のドレスを持って来たオデルに、シルディアはこれ幸いと問いかける。

「ねぇ。つがいの証が刺青なのであればそう言ってくれたら、彫ったのに」
「んん? どうしてその結論に至ったの?」
「背中につがいの証があるから、背中の開いたドレスしかないってヴィーニャが教えてくれたの」
「うん。そこからどう飛躍するのかな?」
「オデルを表すのは白百合なんでしょ? なら、象徴華が背中に彫られているって考えるのは自然なことじゃない?」
「あー……。なるほどね。よし、夜会から戻ったら皇国についてもう少し踏み込んで教えるよ。だから今は着替えようか」

 オデルの視線が衝立を設置し終えたヴィーニャに向けられる。
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