妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
03.告げる
目を覚ますと、知らない天蓋が見えた。
小さな女の子が憧れるような、レースそのものの天蓋だ。
どうやら寝台に寝かされていたらしく、シルディアは温かな布団に包まれてる。
着替えた覚えも、寝室に案内された覚えもない。
(あれ? わたし、謁見の間で……?)
まどろんでいた意識が一気に覚醒する。
起き上がろうと横を向き――浅い呼吸を繰り返す美しい男がそこにいることに、初めて気が付いた。
十人いれば十人が振り返り見惚れてしまうほどの濃艶を醸し出している男が今、シルディアと同じ寝台で横になっている。
真っ黒な絹のような髪。薄い唇。頬の輪郭まで流麗な彼は、ガルズアース皇国の皇王である。
十分な睡眠を取れていないのか、形のいいはずの目元には酷いクマができていた。
深く刻まれたそれは、彼の苦労を物語っているようで少し胸が痛む。
「痛っ、ぅ」
痛々しいそれに手を伸ばそうとして、首元が痛んだ。
心当たりは一つ。
(わたし、皇王に噛まれて……)
「おはよう。俺の白百合」
痛みに呻いた声を聞かれたのだろう。
今まで寝ていたとは思えないほどすっと目覚めたオデルのとろけるような笑顔を向けられた。
目の前にいる男がシルディアを噛んだ張本人だとは誰も信じないだろう。
なぜなら彼からは敵意が一切感じられないからだ。むしろ、溢れんばかりの恋情が表情に現れているといえるだろう。
「白百合……?」
「君が名前を教えてくれないからだろう?」
「だから、わたくしはフロージェだと言っているではありませんか!」
勢いよく起き上がる。
どくどくと嫌な音を立てる心臓を無視して、取り繕う。
妖精姫の名を傷つけないよう細心の注意を払って、シルディアは優雅に微笑んだ。
(やっぱり、私とフロージェの入れ替わりに気が付いているのね。でも、私だって正体がバレるわけにはいかない)
「困ったな。うーん、そうだ。嘘をつく口は縫い付けてしまおうか。それとも喉を潰す? そうすれば、君のその鈴の音のような美しい声は永遠に俺のものだからね」
「そんな……お戯れを」
「君はそればかりだねぇ。本当に戯れか、試してみる?」
起き上がったオデルがシルディアの喉に手をかける。
力を込められてしまえば、簡単にシルディアの命は潰えるだろう。
生殺与奪の権を握られている感覚。
悲鳴が出なかったと褒めたいほど、張り詰めた空気に包まれている。
しかし、シルディアはせめてもの矜持に笑顔を絶やすことはしなかった。
そんな内情を探るようにルビーのような瞳がシルディアを捕らえて離さない。
ほんの少し、首を掴む手に力を込められる。
小さな女の子が憧れるような、レースそのものの天蓋だ。
どうやら寝台に寝かされていたらしく、シルディアは温かな布団に包まれてる。
着替えた覚えも、寝室に案内された覚えもない。
(あれ? わたし、謁見の間で……?)
まどろんでいた意識が一気に覚醒する。
起き上がろうと横を向き――浅い呼吸を繰り返す美しい男がそこにいることに、初めて気が付いた。
十人いれば十人が振り返り見惚れてしまうほどの濃艶を醸し出している男が今、シルディアと同じ寝台で横になっている。
真っ黒な絹のような髪。薄い唇。頬の輪郭まで流麗な彼は、ガルズアース皇国の皇王である。
十分な睡眠を取れていないのか、形のいいはずの目元には酷いクマができていた。
深く刻まれたそれは、彼の苦労を物語っているようで少し胸が痛む。
「痛っ、ぅ」
痛々しいそれに手を伸ばそうとして、首元が痛んだ。
心当たりは一つ。
(わたし、皇王に噛まれて……)
「おはよう。俺の白百合」
痛みに呻いた声を聞かれたのだろう。
今まで寝ていたとは思えないほどすっと目覚めたオデルのとろけるような笑顔を向けられた。
目の前にいる男がシルディアを噛んだ張本人だとは誰も信じないだろう。
なぜなら彼からは敵意が一切感じられないからだ。むしろ、溢れんばかりの恋情が表情に現れているといえるだろう。
「白百合……?」
「君が名前を教えてくれないからだろう?」
「だから、わたくしはフロージェだと言っているではありませんか!」
勢いよく起き上がる。
どくどくと嫌な音を立てる心臓を無視して、取り繕う。
妖精姫の名を傷つけないよう細心の注意を払って、シルディアは優雅に微笑んだ。
(やっぱり、私とフロージェの入れ替わりに気が付いているのね。でも、私だって正体がバレるわけにはいかない)
「困ったな。うーん、そうだ。嘘をつく口は縫い付けてしまおうか。それとも喉を潰す? そうすれば、君のその鈴の音のような美しい声は永遠に俺のものだからね」
「そんな……お戯れを」
「君はそればかりだねぇ。本当に戯れか、試してみる?」
起き上がったオデルがシルディアの喉に手をかける。
力を込められてしまえば、簡単にシルディアの命は潰えるだろう。
生殺与奪の権を握られている感覚。
悲鳴が出なかったと褒めたいほど、張り詰めた空気に包まれている。
しかし、シルディアはせめてもの矜持に笑顔を絶やすことはしなかった。
そんな内情を探るようにルビーのような瞳がシルディアを捕らえて離さない。
ほんの少し、首を掴む手に力を込められる。