妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 彼の意図が分からないままグイグイと強引にバルコニーへと連れ出されてしまい、シルディアは目を丸くするしかない。
 オデルはバルコニーの手すりに寄りかかる。
 褒められたことではないが、彼の姿は絵画のように美しい。

 手すりの隙間から見えるのは庭園だろう。春になれば一面に花が咲き誇り、目を楽しませるに違いない。
 庭園に目を奪われたシルディアはオデルの目の前で足を止めた。
 決して視線が背中に突き刺さるのを感じたからではない。

「どうしてここに?」
「少し疲れたかなって思ってね。父上に会ってから心ここにあらずって感じだったから」
「……そうね」
「やっぱりこんな場に連れてくるんじゃなかったね」

 心ない言葉を浴びせられるシルディアを気遣っているのだろう。
 月明りに照らされたオデルは儚げで、夜会に参加したことを悔いているようだ。

「わたしが参加するって言ったんだから心配しないで。こういう場の嫌味とかには慣れてるから」
「慣れていることと、傷つかないことは別問題だよ」
「私は大丈夫よ。どちらかというと、オデルの方が傷付いて見えるわ。そんなに嫌なら、聞かなければいいのよ」

 少し背伸びをしたシルディアは、オデルの両耳を両手で覆った。
 これ以上自分に向けられる汚い言葉で心優しい彼が傷付かないように、と。
 気休め程度にと手を伸ばしたシルディアだったが、思っていた以上に近づいた彼との距離にどきりと胸が高鳴った。

(いい匂いがするわ。甘くて落ち着く匂い……香水かしら? って、これじゃあ変態みたいじゃない!)

 これ以上何も感じまいと息を呑んだシルディアの耳に、ひそひそと囁き合う声が聞こえてきた。
 驚きから帰ってこないオデルをそのままに、平常心を保つため主役のいなくなった会場へと耳を傾ける。

「まぁはしたない。あんな所で」
「いいではないか。どうせすぐに居なくなるんだ」
「つがいが何のために必要か、皇王陛下は理解していらっしゃらないようだからな。必然か」
「もう二十五だろう? またいつ魔力暴走してもおかしくない」
「そもそも二十五まで生きているのがおかしいのだ! つがいの証を持つ者がいなければ二十歳(はたち)までに魔力暴走で死ぬはずだろう」

 歴史書で学んだ通り、つがいを見つけられなかった次期皇王は二十歳で亡くなるのが共通認識らしい。

(オデルが無事なのは、幼少期にわたしと会ったからよね。だから魔力暴走もせずに――)
「魔力暴走から立て直しただけでも十分化け物だというのに……」

 続いた言葉に、シルディアは驚愕の色を隠せなかった。
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