妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 もっと詳しく話を聞きたいが、盗み聞きをしているにすぎないので簡単に話題が移り変わってしまう。

「化け物だなんて……。皇王陛下はあの女狐に騙されているのでしょう。つがいの証がないのがいい証拠でしょう?」
「そう言って自分がつがいになりたいだけでしょ。そもそも、つがいは魔力安定のために必要なだけだもの。後宮にさえ入ってしまえば、夜渡りのチャンスができるに違いないわ」
「一度きりでも、やりようはあるものね」
「世継ぎさえ身籠れば……」
「しかし、もう長くはないだろう? 一目見ればわかる。あの魔力の揺らぎ。あれは暴走の前兆では――」

 え? と思った時には両耳を塞がれていた。
 一瞬にして音が遠のく。

「シルディアは聞かなくていい」

 大きな掌に耳を覆われてしまえば、もとより小さかった会場での会話など聞こえない。
 いつの間にかシルディアの手は彼の耳からズレており、そのせいで会場の会話が聞こえたのだと悟った。
 両手で顔を包まれ、その綺麗な赤色の瞳から目を離せなくなる。

「俺の声だけに耳を傾けて? シルディアの綺麗な耳をあんな有象無象の奴らの言葉で穢したくない」
「えっと、あのね?」
「ん? あ、さっきの話だよね。大丈夫。俺のお嫁さんはシルディアだけだから! 後宮はあるけど、使うつもりはないし……」

 オデルが少しずれたことを早口に喋るものだから、シルディアはこらえきれずに吹き出してしまった。

「ふふっ。オデル。わたしはそんなに器量の狭い女じゃないわよ」

 彼の両手に自分の手を重ね、微笑む。
 シルディアからオデルに触れるのはこれで二回目だ。
 わずかに息を呑んだオデルの手にすり寄れば、強張る両手。

「わたしが気にしていたのは、その後の言葉よ。長くないって、どういうこと? つがいが見つかれば魔力暴走はしないんじゃなかったの?」
「はぁ。だから社交の場って嫌なんだ。余計な情報までシルディアの耳に入ってしまう」
「その発言は肯定と取るわよ」

 試すようにじっと見つめれば、オデルは大きなため息をついた後、薄く笑った。

「そう受け取ってもらって構わないよ」
< 76 / 137 >

この作品をシェア

pagetop