妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
ぐりぐりと頭を擦り付けられ、彼が弱みを見せようとしているのだと悟った。

「そもそもあいつの言葉に惑わされる俺の弱さが原因だな。シルディアがこんなことで幻滅するはずがない」
「わたしの評価が高いのはいいのだけど……あいつって?」
「竜の王の意識」
「!」
「あいつ、人を惑わすのが上手いんだよ。何人の皇王が犠牲になったか。正直、理解しているにも関わらず手玉に取られる自分にも怒りは沸くがな」

 顔を伏せられているため顔が見えない。
 しかし、自嘲気味に笑っていると分かってしまった。

「オデル、口は上手そうなのに」
「口八丁で勝てる相手じゃない。それにこちらが弱っている時にしか出て来ない、ずる賢い奴だ」
「常時いるわけではないのね」
「あぁ。まっ、今はシルディアに受け入れられて絶好調だからな。魔力が安定していなくても出て来ないさ」
「いいのか悪いのか、分からないわね」
「いいんだよ。全部シルディアのお陰だ。まぁそんなことなくても、ずっと愛してるけどな」
「そういうことをいきなり言うのは反則よ」
「心の準備ができるまで待っていたら、いつまでも愛を囁けないだろ」
「それは……そうかも」
「ほらな」

 肩口で笑うものだから、息遣いがダイレクトに伝わってくる。
 くすぐったさに身をよじれば、満足したのかオデルが顔を上げた。

「そろそろ戻るか」
「そうね」
「好きな酒はあるか?」
「特に好きなお酒はないわ。……なんで?」
「体が冷たくなってしまったからな。酒を飲めば少しは体温が上がるだろ」

 オデルに言われ、シルディアは初めて自身の体が冷え切っていることに気が付いた。
 バルコニーにいた時間は十分にも満たないが、晩冬の夜だ。寒空には変わりない。
 隣に移動したオデルに腰を抱かれる。

「じゃあイチゴのお酒がいいわ」
「あぁ。用意させよう。もしかしてイチゴが好きになったのは……」
「あのクッキーまた食べたいわ」
「! もちろんだ。シルディアのために腕を振るおう」
「あれも手作りだったの!?」

 シルディアは衝撃の事実に驚きつつも、オデルのエスコートに従い足を進める。
 視界の端で、黒い影二つ動いた。

(今、庭園に誰か通った? 逢引かしら?)

 夜会で、未婚の男女が逢引をすることは珍しくない。
 シルディアは特に疑問を持つこともなく、オデルと共に会場へと戻った。
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