シリウスをさがして…
学校集会
数ヶ月振りの学校登校日。
いつもベッドと友達で起きなかった紬は午前6時に重い腰をあげた。
周りにどう思われるかどう思われているのかとかなり悩んでいたが、学校からの指示で必ず出なくちゃいけないという封書が届いていた。
とりあえず、学校に慣れるために集会だけでもいいから出てくださいとのことだった。
遼平とくるみは、いつも学校に行く時間よりかなり早く起きた紬を黙って見届けた。
食欲は無いと軽くロールパンを一口食べて、外に出た。久しぶりに着た制服は痩せたため、少々緩くなっていた。
細々とした腕にバックを背負うと、バス停には輝久が先に待っていた。
「あ! 紬!?」
近寄る前に先に輝久がこちらに走ってきた。
顔の目の前に手を上下に振る。
「これ何本かわかるか?」
「ご、5本。」
「惜しいなー。これは右腕1本でした!よかった。まともだった。」
「うそ、でしょ…。」
冗談にまんまと引っかかった紬は何だかイライラして来て頬を膨らませた。
「まー、まー。そんなに怒らない!紬、見ないうちにかなり痩せた??」
両手で紬の両腕を確認する。明らかに肉つきが無くなっていた。
「うん。ちょっとね。食欲なくて…ほら、バス来たよ。」
どこか覇気がなく、声も小さい。
いつもだと話すバスの中も今日ばかりはずっと静かだった。
ショートカットの髪もセミロングまで伸びていた。
輝久は心配そうに隣で様子を伺いながら静かにバスの中で時間を過ごした。
久しぶりに外出した紬は大勢の中にいるのが凄く気疲れして、少し緊張して膝がカクカク震えた。何度も手でおさえて、止めようと必死だった。
口パクパクして「深呼吸」と小声で話す輝久。
紬は心落ち着かせるように深呼吸した。
幾分、気持ちは落ち着いていた。
輝久は、本当に大丈夫かと心配で気がしれなかった。
学校近くのバス停に近づいている。窓の外を見ると陸斗が足をクロスさせながら待っていた。
出入り口のステップをゆっくり降りた。
「おはよ。やっぱ、警護がいて安心だわ。」
目の前に陸斗がいて安心したのか笑顔で陸斗の横に立った。
「おはようございます。陸斗先輩、勝手に警護扱いしないでください。」
紬の後ろに着いてきた輝久の声がした。
「いいだろう?どーせ、2人とも同じバスなんだから。ありがとうな!」
「先輩、紬の体が震えてて、今にでも倒れそうですよ…。」
その様子を確認した陸斗は紬に後ろから膝カックンしてみた。本当にガクッと転びそうになった。
「……。」
話せないことをいいことに紬の顔に青スジができた。陸斗を睨みつける。
「あ、ほら、大丈夫そうじゃない?」
「どこが大丈夫なんですか…。めっちゃ怒ってんじゃないですか。怖ッ。」
逃げ回る陸斗。
感情を出せば少しでも和らぐかなと言う考えだった。
周りの生徒には変な目で見られている。
紬は周りを気にせず、息を荒くさせて陸斗を怒っていた。
かえってその方が校舎に向かうことができた。
イライラが勝って周りが見えていなかったらしい。
教室の席に着く頃にはまた緊張が出始めて、尋常じゃない汗が出た。
「おはよう。紬ちゃん。やっと会えて嬉しいよ。」
机の高さまでしゃがんだ美嘉が声をかけてくれた。視線を合わせてくれている。
「……。」
引きつった笑顔で頷いた。
「かなり緊張してるね。リラックス、リラックス!」
『おはようございます。本日は体育館にて全校集会があります。生徒の皆さんは速やかに移動してください。繰り返します…』
校内放送が流れた。
紬は、机の中の整理を終えると、体育館に移動した。美嘉が心配そうに、紬の後ろを着いて行った。
さらに後ろの方では輝久と隆介が歩いていた。
「なあ、輝久。磯村の話聞いた?」
「情報流したって話? 学校側に訴えたんじゃないの?」
「それな、揉み消されたんだわ。あいつの親がPTA会長だからって校長の根回しで公にできないってさ。あり得ないよな。犯人がわかってても、そう言うことって現実にあるんだよな。」
「ふーん…大人の事情ってやつ? 校長って確か今年で定年らしいよ。揉め事は作りたくないって話かな。ズルいな…。でも、今日ってなんで全校集会何だろうな。」
両手を上にあげて肩をくすめる隆介。
ゾロゾロと体育館には全校生徒が集まり始めた。
小学生と違って、特に並び順にこだわらない高校は来た順番で並ぶがなかなか先頭に行くのが嫌がる生徒が多い。結局、仕方ないなと輝久と隆介たちがクラスの先頭に立ち、隣のクラスの美嘉と紬も前の方に並んでいた。
相変わらず、緊張で両膝が小刻みに震えていた。
今まで家でこもりきりだった紬にとって、大勢の生徒の中にいるのは気疲れが、半端なかった。
ピリピリと見えないアンテナが、張っている。
「この度、全校生徒のみなさんを集めましたのは、他でもない、インターネットやテレビ、新聞、雑誌等のマスコミ関連で噂されている本校生徒の3年大越陸斗、そして、1年の谷口紬についての今後についてお話させていただこうと集めた次第です。母親違いの兄と妹で男女交際していると報道されておるため、このままでは学校の教育理念や風紀も乱れる可能性がある。そこで、該当する2人には退学処分とさせていただき、全校生徒皆さんに報告とします。」
生徒一同騒然とした。
ザワザワしている。
「ちょっと待ってください!!」
生徒の列から大きな声で叫んだ。
大越陸斗だった。そのまま、校長先生のいる壇上に上がって、マイクを取った。
「なんだ! 君は? 話の途中だぞ。」
脇から教頭や担任の先生たちが阻止しようとする。大越本人さえも知らない校長だった。
「俺は3年の大越陸斗です!今、報道やニュースになってる情報はすべて嘘です。事実無根なんです。俺と谷口紬は赤の他人で血のつながりは一切ありません!本当です。双方の両親に確認を取りました。世に出回ってる情報を鵜呑みにしないでください!」
担任の先生に体を抑えられ、マイクが届かなそうになると
「俺は谷口紬を愛しています!心の底から大好きです。それは何にも変えられない真実です!」
そう言うと五十嵐先生に担ぎこまれて、壇上から降りていく。
話の途中だった校長が話そうとすると生徒達は盛大な拍手が送られていた。
ところどころでまた口笛を吹く生徒もいる。
1年の隆介と3年の康範の2人が吹いていた。
先生たちは拍手をする生徒たちをなだめようと必死だった。
「…真実はおいておきますが、学校の秩序を守るための決定事項です。皆さんも今後とも継続して、健全な学生生活を送り続けてください。」
かけていたメガネがずり落ちそうになっている校長だった。
PTA会長の言うことはペコペコと聞くのにこういうのには情も何も動かない校長であった。
その頃、陸斗を担いだ五十嵐先生は体育館裏で、そっとおろした。
「全く、大胆なことするな。あれ、ほぼプロポーズじゃねえか。何、結婚するわけ?」
「な、違くはないですけど、ああでも言わないと誤解は解けないっしょ。てか、先生、俺本当に退学?成績悪くないのに?なんで?」
「マジか。結婚するんか。羨ましいな…。退学ね……あれは校長の意思ではない気がするんだよね。陸斗の成績全然悪くないし、今回の件だって別に男女交際くらい普通だと思ってるけど、兄妹だったらまずいって話っしょ?」
陸斗は苦虫をつぶしたような顔をした。
校長先生の、判断は少々重かった。
一方、紬はその場に泣き崩れていた。
退学処分の言葉にショックを受けてすぐ、陸斗の告白に感情が入り乱れた。
悲しいやら嬉しいやらで、涙が止まらなかった。
近くにいた美嘉がそっと背中をさすっていた。
「あれって、プロポーズみたいだね。紬、うらやましいなぁ。」
美嘉が言う。
「陸斗先輩、やるなぁ。よく恥ずかしくないよね。俺だったら無理だわ。」
隆介が言う。
「紬、保健室行く?」
輝久は、陸斗のことのコメントは一切しなかった。
紬は黙って頷いた。
輝久が紬をおんぶしようとかかんで背中を見せた。
何となくこの状況も恥ずかしさ倍増だったが、そんなことも言ってられないくらいフラフラしていた。
その後、職員室で会議が開かれて、あの処分は重すぎるという先生が何人も訴えた。校長先生は、機嫌悪そうな顔をすると、退学処分を改め、停学1週間で決定した。
教室で封書に入れられた書類を受け取り、陸斗は安堵した。
保健室で休んでいた紬は、職員室から戻ってきた保健の先生に、停学1週間に決まったと教えられた。
学校を辞めなくて済んで本当に良かったとまた嬉しくて涙が止まらなかった。
「泣き虫ねー、谷口さんは。」
保健の先生は腰に手を当てて、ため息をつく。頭を優しく撫でられた。
学校集会が終わり、それぞれの教室にもどっていつも通りの授業が行われた。
陸斗と紬は1週間停学のため、その後、早退となった。
保健室で休んでいた紬も気持ちが落ち着いて、輝久がわざわざ教室から持ってきてくれていた荷物を肩にかけて、昇降口に向かった。
五十嵐先生との話を終えると、陸斗も教室から出て昇降口に向かう。
靴を履き替えていた紬の横に陸斗が通った。
変に意識して、紬は遠くに逃げた。
「なんで、逃げるんだよ。俺はゴキブリか?」
そう言いながら陸斗も靴に履き替える。
「……。」
顔が真っ赤になって何も話せなくなる。昇降口の端の方へ隠れるように逃げていく。
それを見た陸斗…
「紬がゴキブリみたいだわ…。」
あまりにも、角ギリギリに行くため、虫みたいに見えた。
真っ赤だった顔がふっと切り替わり、平常心に戻った。
自分が、ゴキブリと言われて腹が立ち始めた。
クスッと笑って玄関を出る陸斗。
恋愛感情から一気に怒りの標的になった。背中にバシバシ怒りをぶつけた。
「いたッー。」
叩いてた手をぎゅっと抑えて、手を繋いだ。
「ほら、帰るんでしょう。ふざけないの。」
保護者が子どもに言うように紬の手を握って歩き出した。突然、手を繋ぐからドキッとした。
恥ずかしくて下を向きながら進んでいく。
バス停までの数十メートルだったがそれだけでも一緒にいられてお互いに嬉しかった。
遠くの校舎から誰かに見られていても気にしない。
いつまでもこのままでいられれば良いなと切に願った。
いつもベッドと友達で起きなかった紬は午前6時に重い腰をあげた。
周りにどう思われるかどう思われているのかとかなり悩んでいたが、学校からの指示で必ず出なくちゃいけないという封書が届いていた。
とりあえず、学校に慣れるために集会だけでもいいから出てくださいとのことだった。
遼平とくるみは、いつも学校に行く時間よりかなり早く起きた紬を黙って見届けた。
食欲は無いと軽くロールパンを一口食べて、外に出た。久しぶりに着た制服は痩せたため、少々緩くなっていた。
細々とした腕にバックを背負うと、バス停には輝久が先に待っていた。
「あ! 紬!?」
近寄る前に先に輝久がこちらに走ってきた。
顔の目の前に手を上下に振る。
「これ何本かわかるか?」
「ご、5本。」
「惜しいなー。これは右腕1本でした!よかった。まともだった。」
「うそ、でしょ…。」
冗談にまんまと引っかかった紬は何だかイライラして来て頬を膨らませた。
「まー、まー。そんなに怒らない!紬、見ないうちにかなり痩せた??」
両手で紬の両腕を確認する。明らかに肉つきが無くなっていた。
「うん。ちょっとね。食欲なくて…ほら、バス来たよ。」
どこか覇気がなく、声も小さい。
いつもだと話すバスの中も今日ばかりはずっと静かだった。
ショートカットの髪もセミロングまで伸びていた。
輝久は心配そうに隣で様子を伺いながら静かにバスの中で時間を過ごした。
久しぶりに外出した紬は大勢の中にいるのが凄く気疲れして、少し緊張して膝がカクカク震えた。何度も手でおさえて、止めようと必死だった。
口パクパクして「深呼吸」と小声で話す輝久。
紬は心落ち着かせるように深呼吸した。
幾分、気持ちは落ち着いていた。
輝久は、本当に大丈夫かと心配で気がしれなかった。
学校近くのバス停に近づいている。窓の外を見ると陸斗が足をクロスさせながら待っていた。
出入り口のステップをゆっくり降りた。
「おはよ。やっぱ、警護がいて安心だわ。」
目の前に陸斗がいて安心したのか笑顔で陸斗の横に立った。
「おはようございます。陸斗先輩、勝手に警護扱いしないでください。」
紬の後ろに着いてきた輝久の声がした。
「いいだろう?どーせ、2人とも同じバスなんだから。ありがとうな!」
「先輩、紬の体が震えてて、今にでも倒れそうですよ…。」
その様子を確認した陸斗は紬に後ろから膝カックンしてみた。本当にガクッと転びそうになった。
「……。」
話せないことをいいことに紬の顔に青スジができた。陸斗を睨みつける。
「あ、ほら、大丈夫そうじゃない?」
「どこが大丈夫なんですか…。めっちゃ怒ってんじゃないですか。怖ッ。」
逃げ回る陸斗。
感情を出せば少しでも和らぐかなと言う考えだった。
周りの生徒には変な目で見られている。
紬は周りを気にせず、息を荒くさせて陸斗を怒っていた。
かえってその方が校舎に向かうことができた。
イライラが勝って周りが見えていなかったらしい。
教室の席に着く頃にはまた緊張が出始めて、尋常じゃない汗が出た。
「おはよう。紬ちゃん。やっと会えて嬉しいよ。」
机の高さまでしゃがんだ美嘉が声をかけてくれた。視線を合わせてくれている。
「……。」
引きつった笑顔で頷いた。
「かなり緊張してるね。リラックス、リラックス!」
『おはようございます。本日は体育館にて全校集会があります。生徒の皆さんは速やかに移動してください。繰り返します…』
校内放送が流れた。
紬は、机の中の整理を終えると、体育館に移動した。美嘉が心配そうに、紬の後ろを着いて行った。
さらに後ろの方では輝久と隆介が歩いていた。
「なあ、輝久。磯村の話聞いた?」
「情報流したって話? 学校側に訴えたんじゃないの?」
「それな、揉み消されたんだわ。あいつの親がPTA会長だからって校長の根回しで公にできないってさ。あり得ないよな。犯人がわかってても、そう言うことって現実にあるんだよな。」
「ふーん…大人の事情ってやつ? 校長って確か今年で定年らしいよ。揉め事は作りたくないって話かな。ズルいな…。でも、今日ってなんで全校集会何だろうな。」
両手を上にあげて肩をくすめる隆介。
ゾロゾロと体育館には全校生徒が集まり始めた。
小学生と違って、特に並び順にこだわらない高校は来た順番で並ぶがなかなか先頭に行くのが嫌がる生徒が多い。結局、仕方ないなと輝久と隆介たちがクラスの先頭に立ち、隣のクラスの美嘉と紬も前の方に並んでいた。
相変わらず、緊張で両膝が小刻みに震えていた。
今まで家でこもりきりだった紬にとって、大勢の生徒の中にいるのは気疲れが、半端なかった。
ピリピリと見えないアンテナが、張っている。
「この度、全校生徒のみなさんを集めましたのは、他でもない、インターネットやテレビ、新聞、雑誌等のマスコミ関連で噂されている本校生徒の3年大越陸斗、そして、1年の谷口紬についての今後についてお話させていただこうと集めた次第です。母親違いの兄と妹で男女交際していると報道されておるため、このままでは学校の教育理念や風紀も乱れる可能性がある。そこで、該当する2人には退学処分とさせていただき、全校生徒皆さんに報告とします。」
生徒一同騒然とした。
ザワザワしている。
「ちょっと待ってください!!」
生徒の列から大きな声で叫んだ。
大越陸斗だった。そのまま、校長先生のいる壇上に上がって、マイクを取った。
「なんだ! 君は? 話の途中だぞ。」
脇から教頭や担任の先生たちが阻止しようとする。大越本人さえも知らない校長だった。
「俺は3年の大越陸斗です!今、報道やニュースになってる情報はすべて嘘です。事実無根なんです。俺と谷口紬は赤の他人で血のつながりは一切ありません!本当です。双方の両親に確認を取りました。世に出回ってる情報を鵜呑みにしないでください!」
担任の先生に体を抑えられ、マイクが届かなそうになると
「俺は谷口紬を愛しています!心の底から大好きです。それは何にも変えられない真実です!」
そう言うと五十嵐先生に担ぎこまれて、壇上から降りていく。
話の途中だった校長が話そうとすると生徒達は盛大な拍手が送られていた。
ところどころでまた口笛を吹く生徒もいる。
1年の隆介と3年の康範の2人が吹いていた。
先生たちは拍手をする生徒たちをなだめようと必死だった。
「…真実はおいておきますが、学校の秩序を守るための決定事項です。皆さんも今後とも継続して、健全な学生生活を送り続けてください。」
かけていたメガネがずり落ちそうになっている校長だった。
PTA会長の言うことはペコペコと聞くのにこういうのには情も何も動かない校長であった。
その頃、陸斗を担いだ五十嵐先生は体育館裏で、そっとおろした。
「全く、大胆なことするな。あれ、ほぼプロポーズじゃねえか。何、結婚するわけ?」
「な、違くはないですけど、ああでも言わないと誤解は解けないっしょ。てか、先生、俺本当に退学?成績悪くないのに?なんで?」
「マジか。結婚するんか。羨ましいな…。退学ね……あれは校長の意思ではない気がするんだよね。陸斗の成績全然悪くないし、今回の件だって別に男女交際くらい普通だと思ってるけど、兄妹だったらまずいって話っしょ?」
陸斗は苦虫をつぶしたような顔をした。
校長先生の、判断は少々重かった。
一方、紬はその場に泣き崩れていた。
退学処分の言葉にショックを受けてすぐ、陸斗の告白に感情が入り乱れた。
悲しいやら嬉しいやらで、涙が止まらなかった。
近くにいた美嘉がそっと背中をさすっていた。
「あれって、プロポーズみたいだね。紬、うらやましいなぁ。」
美嘉が言う。
「陸斗先輩、やるなぁ。よく恥ずかしくないよね。俺だったら無理だわ。」
隆介が言う。
「紬、保健室行く?」
輝久は、陸斗のことのコメントは一切しなかった。
紬は黙って頷いた。
輝久が紬をおんぶしようとかかんで背中を見せた。
何となくこの状況も恥ずかしさ倍増だったが、そんなことも言ってられないくらいフラフラしていた。
その後、職員室で会議が開かれて、あの処分は重すぎるという先生が何人も訴えた。校長先生は、機嫌悪そうな顔をすると、退学処分を改め、停学1週間で決定した。
教室で封書に入れられた書類を受け取り、陸斗は安堵した。
保健室で休んでいた紬は、職員室から戻ってきた保健の先生に、停学1週間に決まったと教えられた。
学校を辞めなくて済んで本当に良かったとまた嬉しくて涙が止まらなかった。
「泣き虫ねー、谷口さんは。」
保健の先生は腰に手を当てて、ため息をつく。頭を優しく撫でられた。
学校集会が終わり、それぞれの教室にもどっていつも通りの授業が行われた。
陸斗と紬は1週間停学のため、その後、早退となった。
保健室で休んでいた紬も気持ちが落ち着いて、輝久がわざわざ教室から持ってきてくれていた荷物を肩にかけて、昇降口に向かった。
五十嵐先生との話を終えると、陸斗も教室から出て昇降口に向かう。
靴を履き替えていた紬の横に陸斗が通った。
変に意識して、紬は遠くに逃げた。
「なんで、逃げるんだよ。俺はゴキブリか?」
そう言いながら陸斗も靴に履き替える。
「……。」
顔が真っ赤になって何も話せなくなる。昇降口の端の方へ隠れるように逃げていく。
それを見た陸斗…
「紬がゴキブリみたいだわ…。」
あまりにも、角ギリギリに行くため、虫みたいに見えた。
真っ赤だった顔がふっと切り替わり、平常心に戻った。
自分が、ゴキブリと言われて腹が立ち始めた。
クスッと笑って玄関を出る陸斗。
恋愛感情から一気に怒りの標的になった。背中にバシバシ怒りをぶつけた。
「いたッー。」
叩いてた手をぎゅっと抑えて、手を繋いだ。
「ほら、帰るんでしょう。ふざけないの。」
保護者が子どもに言うように紬の手を握って歩き出した。突然、手を繋ぐからドキッとした。
恥ずかしくて下を向きながら進んでいく。
バス停までの数十メートルだったがそれだけでも一緒にいられてお互いに嬉しかった。
遠くの校舎から誰かに見られていても気にしない。
いつまでもこのままでいられれば良いなと切に願った。