シリウスをさがして…
初対面の対決?!
ランチタイム時の商店街が混み合っていた。
輝久と隆介は、洸と紬がいる「太陽の下で」のカフェのドアを開けた。どっちが先に行くか揉めながら、結局、隆介が先に行くことになる。
ウエイターに人数を確認されたが、先に来ている方の所でと伝えると、中へ案内されて、洸と紬のいる席に、輝久は紬の隣で,隆介は洸の隣にすわった。
「洸さん、お久しぶりです。ぜひ、俺らにもランチおごってくださいよ。」
すでにオムライスメニューを堪能していた2人。突然来た2人に驚きを隠せない。
「ん? ごめん、誰だっけ。」
「輝久…。」
紬は、なんでここにいるのばかりに見る。紬にとっては同じ学校のクラスは違えど、同級生である。知らないはずはない。
「洸さん、学校の同級生です。」
「あ、あぁ! あの時のリニューアルイベントで来てた里中くんね。あれ、美嘉ちゃんはどうしたん? んで、そっちの子は?」
輝久は初対面だったが、睨みを効かせて洸を見つめた。
まるで、コブラとマングース、いやはや、犬と猿の戦いのように洸も,負けじと睨みつける。
「何?初対面でガンつけられるの初めてなんだけど!!」
「幼馴染です。私の…。」
「へぇ、そうなんだ。幼馴染がなんで俺を睨むのよ。」
「庄司輝久です!!」
睨みつけたまま、名前を名乗る。
「ちゃんと名前言えんじゃん。」
「…ごめんなさい。お手洗いに行ってきます。」
状況に耐えられなかった紬はその場を逃げ出し、トイレに向かった。
向かい合わせにまだ睨み続ける輝久。目力で負けた洸は視線を外す。
「洸さん、なんで、紬ちゃんとデートしてるんですか!? 陸斗先輩と付き合っているって知ってますよね?」
コーヒーを飲んで、落ち着かせた洸。
「え?別に。社会勉強?」
ごまかした。
「それって紬と一緒にいる必要ないですよね。」
輝久は低い声で言う。
「それこそ、君たちに関係なくね?誰とデートしようが、別にいいじゃん。」
「そりゃぁ、外野ですけど、ちょっと人としてどうなのかなって話で。」
「はいはい。んで、君たちは何食べたいの?イライラはお腹すいてる証拠でしょ?」
立てかけてあるメニューを広げて、2人に見せた。
「マジっすか。ごちになります。俺は…。」
「ここね、ハヤシオムライスがおすすめだよ。うまかったから。」
「そしたら、それで。輝は? 一緒?」
「ああ。」
イラつきながら、返事する輝久。なんだかんだでごちそうにはなるらしい。
話をすり替えられて納得できない。
「もうすぐ、高校で文化祭だって? 君たちは何するの? ギターでも演奏する気?」
「情報早いですね。俺らは表で焼きそばやクレープ作りする予定です。確か、紬ちゃんのクラスはお化け屋敷するらしいっすよ。」
「楽しそうだね。やっぱ、高校と大学は違うから、文化祭は満喫した方いいよ。今しか味わえないから。俺も、合間見て、覗きに行くから。」
「別に来なくてもいいですよ。忙しいなら…。」
「冷たいなぁ。ねえ、君、初対面なのにずいぶん失礼じゃない?」
鼻息をふーとふいて横を向いた輝久。
「輝! 洸さんは紬ちゃんの店のアルバイトの人だよ。まぁ、関係性としては怪しいけど。」
「はぁ、なるほど。そのつながりで近づいたってことですか。」
少し納得した輝久。洸は、何だか雰囲気が悪いと感じた。
「俺も、トイレ行ってこようかな。」
洸はふいに席を立つ。
ぶつぶつ文句を言いながら、輝久はお冷をブクブク鳴らしながら飲んだ。
「汚いよ。輝。」
「うん。」
「洸さん、前に美嘉を狙うような素振りしてたから、紬ちゃんを狙っててもおかしくないんだよね。輝より、会う時間も多いだろうしな。」
「それが、問題だよな。陸斗先輩よりも…。」
ため息をふーとついて窓の外をのぞく。
トイレだと思っていた紬が外の街路樹があるところで佇んでいた。気づいた洸は後ろから追いかけて、2人でどこかに行こうとしていた。紬は申し訳なさそうに行ってしまう。
「お待たせしました。オムライスパスタセットです。」
2人を追いかけようとした輝久は、ウエイターの声に反応して、席を座り直した。
ちょうど、隆介の分と2人分がテーブルに並べられた。
「お客様、こちらのお会計は先ほどのお客様よりお支払いいただいておりますので、ごゆっくりお召し上がりください。」
丁寧にお辞儀をして、立ち去るウエイター。
洸は、立ち去る際に、会計も済ましておいたようだ。
タダ飯が食べられて素直にラッキーと感じた隆介だったが、輝久は複雑な気持ちだった。
こんなことなら、もっと高いステーキセットにしておけばよかったと後悔した。
モヤモヤした気持ちだったが、デミグラスソースがかけられたオムライスはすごく美味しかった。
2人は思いがけず、お腹いっぱいに心が満たされた。
***
「紬ちゃん、ごめん。あの空間、居づらかったよね。会計済ませておいたから、別なところ行っちゃお。」
「あ、でも…、私。もうこれで…。」
外の街路樹で待っていた紬は、そのまま、帰ろうとしたら、断ることもできず、手を引っ張られて、進まざる得なかった。
「いいから、もう少しだけ付き合ってよ。」
「あの輝久くんって、付き合い長いの?」
「一応、家が近所で5歳から一緒に過ごしてましたから、長いですね。高校も一緒ですし。」
「ふーん。」
洸は何となく、状況が読めたようで、睨まれていたのも納得できた。
(片思いか…。)
「輝久くんって陸斗のこと知っているんでしょう。」
「はい。知ってますよ。学校の先輩ですし。」
「……紬ちゃんって鈍感だったりする?」
「え?鈍感って?」
「いや、なんでもない。」
(輝久くん、かわいそうやな。あんなに露骨に表現してるのに…)
「まぁ、いいや。んじゃ、この後、時間あるからさ、どこか行こうか。車、立体駐車場に止めてるから。」
「え、駅で待ち合わせしたのに車で来てたんですか?」
「え、いいじゃん。あのステンドグラスで待ち合わせやってみたかったの。いつも車デートとかが多いからってそんな何人も彼女いるわけないけどね。過去にね。」
紬は何と無く、疑いの目を寄せた。
「今はフリーだよ?元彼女がね。バスや電車乗る好きじゃないって子だったから。人混み好きじゃないって言われて。あ、でも紬ちゃんも苦手?」
「最近は慣れてきた感じです。喋るのも…。」
にこっとはにかむ洸、ニヤニヤさらに笑って
「それは、陸斗のおかげ?」
「……まぁ。」
赤面する紬。洸はぽんと頭を触れる。
「かわいいねぇ。陸斗がうらやましいよ。」
裏通りを誘導し、歩く洸。
紬は小走りで着いていく。
「あ、あの。そういえば、秘密にしといてくれるってあの話って…、どうなったんですか?」
洸に聞こうとすると、誰もいない近くのアパートの駐車場にある壁に紬を寄せた。
静かに目を閉じて顔を近づける。紬は何かされると必死で目を思いっきりぎゅーとつぶった。
やわらかいふわっとした何かがくちびるに触れた。
(今、キスされた?!)
咄嗟のことに洸の胸を両手ではねのけた。自分の口をおさえた。
「……!?」
何も言えず、紬は商店街通りに向かって走り去った。
洸は、拒絶されたことを思い知らされて、追いかけることができなかった。
床に落ちた自分の車の鍵を拾った。あと数メートルいけば、駐車場があって、一緒にドライブデートを楽しむ予定だった。
陸斗を思い出す仕草があまりにも愛おしくて、衝動がおさえられなかった。
なんで、自分ではダメなんだろうと、落ち込んだ。
さっきまで、普通に会話できていたし、気持ちは落ち着いていたと思っていた。でも、それは好きの感情ではなかった。前髪を掻き上げて、立体駐車場にトボトボと向かう。
陸斗以外の人とキスをしてしまったことに後悔と罪悪感がさいなまれていた紬。
あてもなく、前を見ずに、商店街通りを走っていた。歩行者信号機が青の点滅になろうとした時に目の前に人がいたことに気づかずに肩がぶつかってしまった。
「すいません!」
「こちらこそ、ごめんなさい。……あ、信号、赤になりますよ!」
ぶつかったまま、横断歩道を渡ろうとした紬はぶつかった人に腕をつかまれ、立ち止まった。
危なく、車にひかれそうになった。
「気をつけてください。……紬? どうした?」
ずっと下を向いていて、誰だか気づかなかった。声をかけられて、上を見上げると、目の前に陸斗がいた。
今は会ってはいけないんじゃないかと思って、視線をそらした。
「だ、大丈夫。」
それ以上、何も言えなかった。
目の前で車が行き交う音が響いている。遠くの方でクラクションが鳴り響く。
「大丈夫って、なんかあったの? そっちに行く用事あった?」
「……。」
何も言えなくなる。
陸斗の笑顔が逆に申し訳なく思う。
「俺、今、バイト終わった所でさ。紬何か用事あるの?無いなら、どっか行かない?」
ただ、キスしただけだが、なぜだか汚れた女になったんでは無いかと不安が生じる。
これって浮気になるのかならないのか。
自分からしたわけじゃ無いのに、涙が溢れてくる。
「ごめんなさい。」
「え、何が? 何謝っているの? 何か嫌なことあった?」
首を横に振る。
陸斗は状況が読めず、とりあえず近くのカラオケにでも行こうかといざなう。
こくんと頷いて、黙って紬は着いていった。
ーーー
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「はい。時間は2時間で、機種はお任せします。」
「それでは、今はジョイソングが空いておりますのでご案内します。ワンドリンク制なので、ご希望のお飲み物をお願いします。」
「えっと、俺はコーラで、紬は?紅茶?」
「うん。レモンティーがいいかな。」
「そしたら、コーラとレモンティーでお願いします。」
幾分気持ちが落ち着いた紬は冷静に答えられた。
「コーラとレモンティーですね。お部屋は17号室です。ごゆっくりどうぞ。」
伝票を受け取ると陸斗は部屋のある方向へ移動する。
エレベーターに向かった。
上のボタンを押す。
すぐにドアが開いた。
「カラオケ、久しぶりだなぁ。あれ、紬と来るの初めてだ。ん?歌える?」
「聴く専門かな。」
「歌ってほしいけど……さっき、どうかしたの? 危なく引かれそうになってたけど。」
心配してくれるのがすごく嬉しかった。
それ以上にいますぐに
「ん?」
大胆にも紬は陸斗の左腕と長袖の胸あたりを引っ張って顔を近づけて目をつぶってキスした。
不意打ちだった陸斗は目をあけたままだった。
すぐにでも、塗り替えたかった。
好きじゃ無い人とのキスは思い出したくなかった。
これで少しでも気持ちは陸斗に戻れた気がする。
紬は、自分は何をしているんだろうと我に返ると、両耳から両頬まで真っ赤にさせて、小さくなった。
突然でも、嬉しかった陸斗はお返しにエレベーターの壁に両肩を抑えながら、紬を寄せて、改めてそっと横から目を閉じて優しくキスをした。
まだ、ボタンを押してなかったため、止まったままのエレベーター。誰も乗ってなくてよかったと安心したが、いつの間にか,上に移動していた。
2階に止まるはずが、7階まで進もうとしている。
ハッと気がついたが、7階まで時間があると、思った陸斗は鼻と鼻をくっつけて、また紬の上唇をはさむようなキスをした。
エレベーターの音がピロンと鳴った瞬間に、恥ずかしそうにさっとそれぞれ端に離れた。
エレベーターに乗ってくる20代~30代くらいの女性2人はクスッと笑っていた。
「若いって良いよねー。うらやましいわ。」
「そうだよね。」
ボソッと言いながらエレベーターに乗る。
紬と陸斗は少し離れて、2階のボタンを押して、ササッと降りた。
17号室の中に入り、カラオケを楽しんだ。
聴く専門と言いながら、昔流行ったアニメソングを小さな声だったが、頑張って歌っていた。
歌う姿を見たことない陸斗は新鮮で違う姿を見れてよかったと感じた。
そういう陸斗はラブソングの歌をビブラートとしゃくりを入れながら、歌っている。
それなりに上手く歌えていた。
採点機能も90点代を出していた。
気分転換になって、今日のことが楽しいことで塗り替えることができた。
偶然だったが、陸斗がいて本当によかったと心から思った。
家に着くころには、心があたたかくポカポカした気持ちになった。
夜はぐっすり眠れそうだ。
輝久と隆介は、洸と紬がいる「太陽の下で」のカフェのドアを開けた。どっちが先に行くか揉めながら、結局、隆介が先に行くことになる。
ウエイターに人数を確認されたが、先に来ている方の所でと伝えると、中へ案内されて、洸と紬のいる席に、輝久は紬の隣で,隆介は洸の隣にすわった。
「洸さん、お久しぶりです。ぜひ、俺らにもランチおごってくださいよ。」
すでにオムライスメニューを堪能していた2人。突然来た2人に驚きを隠せない。
「ん? ごめん、誰だっけ。」
「輝久…。」
紬は、なんでここにいるのばかりに見る。紬にとっては同じ学校のクラスは違えど、同級生である。知らないはずはない。
「洸さん、学校の同級生です。」
「あ、あぁ! あの時のリニューアルイベントで来てた里中くんね。あれ、美嘉ちゃんはどうしたん? んで、そっちの子は?」
輝久は初対面だったが、睨みを効かせて洸を見つめた。
まるで、コブラとマングース、いやはや、犬と猿の戦いのように洸も,負けじと睨みつける。
「何?初対面でガンつけられるの初めてなんだけど!!」
「幼馴染です。私の…。」
「へぇ、そうなんだ。幼馴染がなんで俺を睨むのよ。」
「庄司輝久です!!」
睨みつけたまま、名前を名乗る。
「ちゃんと名前言えんじゃん。」
「…ごめんなさい。お手洗いに行ってきます。」
状況に耐えられなかった紬はその場を逃げ出し、トイレに向かった。
向かい合わせにまだ睨み続ける輝久。目力で負けた洸は視線を外す。
「洸さん、なんで、紬ちゃんとデートしてるんですか!? 陸斗先輩と付き合っているって知ってますよね?」
コーヒーを飲んで、落ち着かせた洸。
「え?別に。社会勉強?」
ごまかした。
「それって紬と一緒にいる必要ないですよね。」
輝久は低い声で言う。
「それこそ、君たちに関係なくね?誰とデートしようが、別にいいじゃん。」
「そりゃぁ、外野ですけど、ちょっと人としてどうなのかなって話で。」
「はいはい。んで、君たちは何食べたいの?イライラはお腹すいてる証拠でしょ?」
立てかけてあるメニューを広げて、2人に見せた。
「マジっすか。ごちになります。俺は…。」
「ここね、ハヤシオムライスがおすすめだよ。うまかったから。」
「そしたら、それで。輝は? 一緒?」
「ああ。」
イラつきながら、返事する輝久。なんだかんだでごちそうにはなるらしい。
話をすり替えられて納得できない。
「もうすぐ、高校で文化祭だって? 君たちは何するの? ギターでも演奏する気?」
「情報早いですね。俺らは表で焼きそばやクレープ作りする予定です。確か、紬ちゃんのクラスはお化け屋敷するらしいっすよ。」
「楽しそうだね。やっぱ、高校と大学は違うから、文化祭は満喫した方いいよ。今しか味わえないから。俺も、合間見て、覗きに行くから。」
「別に来なくてもいいですよ。忙しいなら…。」
「冷たいなぁ。ねえ、君、初対面なのにずいぶん失礼じゃない?」
鼻息をふーとふいて横を向いた輝久。
「輝! 洸さんは紬ちゃんの店のアルバイトの人だよ。まぁ、関係性としては怪しいけど。」
「はぁ、なるほど。そのつながりで近づいたってことですか。」
少し納得した輝久。洸は、何だか雰囲気が悪いと感じた。
「俺も、トイレ行ってこようかな。」
洸はふいに席を立つ。
ぶつぶつ文句を言いながら、輝久はお冷をブクブク鳴らしながら飲んだ。
「汚いよ。輝。」
「うん。」
「洸さん、前に美嘉を狙うような素振りしてたから、紬ちゃんを狙っててもおかしくないんだよね。輝より、会う時間も多いだろうしな。」
「それが、問題だよな。陸斗先輩よりも…。」
ため息をふーとついて窓の外をのぞく。
トイレだと思っていた紬が外の街路樹があるところで佇んでいた。気づいた洸は後ろから追いかけて、2人でどこかに行こうとしていた。紬は申し訳なさそうに行ってしまう。
「お待たせしました。オムライスパスタセットです。」
2人を追いかけようとした輝久は、ウエイターの声に反応して、席を座り直した。
ちょうど、隆介の分と2人分がテーブルに並べられた。
「お客様、こちらのお会計は先ほどのお客様よりお支払いいただいておりますので、ごゆっくりお召し上がりください。」
丁寧にお辞儀をして、立ち去るウエイター。
洸は、立ち去る際に、会計も済ましておいたようだ。
タダ飯が食べられて素直にラッキーと感じた隆介だったが、輝久は複雑な気持ちだった。
こんなことなら、もっと高いステーキセットにしておけばよかったと後悔した。
モヤモヤした気持ちだったが、デミグラスソースがかけられたオムライスはすごく美味しかった。
2人は思いがけず、お腹いっぱいに心が満たされた。
***
「紬ちゃん、ごめん。あの空間、居づらかったよね。会計済ませておいたから、別なところ行っちゃお。」
「あ、でも…、私。もうこれで…。」
外の街路樹で待っていた紬は、そのまま、帰ろうとしたら、断ることもできず、手を引っ張られて、進まざる得なかった。
「いいから、もう少しだけ付き合ってよ。」
「あの輝久くんって、付き合い長いの?」
「一応、家が近所で5歳から一緒に過ごしてましたから、長いですね。高校も一緒ですし。」
「ふーん。」
洸は何となく、状況が読めたようで、睨まれていたのも納得できた。
(片思いか…。)
「輝久くんって陸斗のこと知っているんでしょう。」
「はい。知ってますよ。学校の先輩ですし。」
「……紬ちゃんって鈍感だったりする?」
「え?鈍感って?」
「いや、なんでもない。」
(輝久くん、かわいそうやな。あんなに露骨に表現してるのに…)
「まぁ、いいや。んじゃ、この後、時間あるからさ、どこか行こうか。車、立体駐車場に止めてるから。」
「え、駅で待ち合わせしたのに車で来てたんですか?」
「え、いいじゃん。あのステンドグラスで待ち合わせやってみたかったの。いつも車デートとかが多いからってそんな何人も彼女いるわけないけどね。過去にね。」
紬は何と無く、疑いの目を寄せた。
「今はフリーだよ?元彼女がね。バスや電車乗る好きじゃないって子だったから。人混み好きじゃないって言われて。あ、でも紬ちゃんも苦手?」
「最近は慣れてきた感じです。喋るのも…。」
にこっとはにかむ洸、ニヤニヤさらに笑って
「それは、陸斗のおかげ?」
「……まぁ。」
赤面する紬。洸はぽんと頭を触れる。
「かわいいねぇ。陸斗がうらやましいよ。」
裏通りを誘導し、歩く洸。
紬は小走りで着いていく。
「あ、あの。そういえば、秘密にしといてくれるってあの話って…、どうなったんですか?」
洸に聞こうとすると、誰もいない近くのアパートの駐車場にある壁に紬を寄せた。
静かに目を閉じて顔を近づける。紬は何かされると必死で目を思いっきりぎゅーとつぶった。
やわらかいふわっとした何かがくちびるに触れた。
(今、キスされた?!)
咄嗟のことに洸の胸を両手ではねのけた。自分の口をおさえた。
「……!?」
何も言えず、紬は商店街通りに向かって走り去った。
洸は、拒絶されたことを思い知らされて、追いかけることができなかった。
床に落ちた自分の車の鍵を拾った。あと数メートルいけば、駐車場があって、一緒にドライブデートを楽しむ予定だった。
陸斗を思い出す仕草があまりにも愛おしくて、衝動がおさえられなかった。
なんで、自分ではダメなんだろうと、落ち込んだ。
さっきまで、普通に会話できていたし、気持ちは落ち着いていたと思っていた。でも、それは好きの感情ではなかった。前髪を掻き上げて、立体駐車場にトボトボと向かう。
陸斗以外の人とキスをしてしまったことに後悔と罪悪感がさいなまれていた紬。
あてもなく、前を見ずに、商店街通りを走っていた。歩行者信号機が青の点滅になろうとした時に目の前に人がいたことに気づかずに肩がぶつかってしまった。
「すいません!」
「こちらこそ、ごめんなさい。……あ、信号、赤になりますよ!」
ぶつかったまま、横断歩道を渡ろうとした紬はぶつかった人に腕をつかまれ、立ち止まった。
危なく、車にひかれそうになった。
「気をつけてください。……紬? どうした?」
ずっと下を向いていて、誰だか気づかなかった。声をかけられて、上を見上げると、目の前に陸斗がいた。
今は会ってはいけないんじゃないかと思って、視線をそらした。
「だ、大丈夫。」
それ以上、何も言えなかった。
目の前で車が行き交う音が響いている。遠くの方でクラクションが鳴り響く。
「大丈夫って、なんかあったの? そっちに行く用事あった?」
「……。」
何も言えなくなる。
陸斗の笑顔が逆に申し訳なく思う。
「俺、今、バイト終わった所でさ。紬何か用事あるの?無いなら、どっか行かない?」
ただ、キスしただけだが、なぜだか汚れた女になったんでは無いかと不安が生じる。
これって浮気になるのかならないのか。
自分からしたわけじゃ無いのに、涙が溢れてくる。
「ごめんなさい。」
「え、何が? 何謝っているの? 何か嫌なことあった?」
首を横に振る。
陸斗は状況が読めず、とりあえず近くのカラオケにでも行こうかといざなう。
こくんと頷いて、黙って紬は着いていった。
ーーー
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「はい。時間は2時間で、機種はお任せします。」
「それでは、今はジョイソングが空いておりますのでご案内します。ワンドリンク制なので、ご希望のお飲み物をお願いします。」
「えっと、俺はコーラで、紬は?紅茶?」
「うん。レモンティーがいいかな。」
「そしたら、コーラとレモンティーでお願いします。」
幾分気持ちが落ち着いた紬は冷静に答えられた。
「コーラとレモンティーですね。お部屋は17号室です。ごゆっくりどうぞ。」
伝票を受け取ると陸斗は部屋のある方向へ移動する。
エレベーターに向かった。
上のボタンを押す。
すぐにドアが開いた。
「カラオケ、久しぶりだなぁ。あれ、紬と来るの初めてだ。ん?歌える?」
「聴く専門かな。」
「歌ってほしいけど……さっき、どうかしたの? 危なく引かれそうになってたけど。」
心配してくれるのがすごく嬉しかった。
それ以上にいますぐに
「ん?」
大胆にも紬は陸斗の左腕と長袖の胸あたりを引っ張って顔を近づけて目をつぶってキスした。
不意打ちだった陸斗は目をあけたままだった。
すぐにでも、塗り替えたかった。
好きじゃ無い人とのキスは思い出したくなかった。
これで少しでも気持ちは陸斗に戻れた気がする。
紬は、自分は何をしているんだろうと我に返ると、両耳から両頬まで真っ赤にさせて、小さくなった。
突然でも、嬉しかった陸斗はお返しにエレベーターの壁に両肩を抑えながら、紬を寄せて、改めてそっと横から目を閉じて優しくキスをした。
まだ、ボタンを押してなかったため、止まったままのエレベーター。誰も乗ってなくてよかったと安心したが、いつの間にか,上に移動していた。
2階に止まるはずが、7階まで進もうとしている。
ハッと気がついたが、7階まで時間があると、思った陸斗は鼻と鼻をくっつけて、また紬の上唇をはさむようなキスをした。
エレベーターの音がピロンと鳴った瞬間に、恥ずかしそうにさっとそれぞれ端に離れた。
エレベーターに乗ってくる20代~30代くらいの女性2人はクスッと笑っていた。
「若いって良いよねー。うらやましいわ。」
「そうだよね。」
ボソッと言いながらエレベーターに乗る。
紬と陸斗は少し離れて、2階のボタンを押して、ササッと降りた。
17号室の中に入り、カラオケを楽しんだ。
聴く専門と言いながら、昔流行ったアニメソングを小さな声だったが、頑張って歌っていた。
歌う姿を見たことない陸斗は新鮮で違う姿を見れてよかったと感じた。
そういう陸斗はラブソングの歌をビブラートとしゃくりを入れながら、歌っている。
それなりに上手く歌えていた。
採点機能も90点代を出していた。
気分転換になって、今日のことが楽しいことで塗り替えることができた。
偶然だったが、陸斗がいて本当によかったと心から思った。
家に着くころには、心があたたかくポカポカした気持ちになった。
夜はぐっすり眠れそうだ。