シリウスをさがして…
心揺れ動く
美嘉と洸との別れて、陸斗と2人で遊園地のアトラクションを見て回った。
絶叫系が苦手だとはっきり分かった紬はのんびりなものに気を使いながら、選んで乗った。
陸斗は本当は絶叫ものを乗りたかったが、紬に合わせて一緒に乗れるものを選んだ。
元々、2人でデートするはずなのを、美嘉が洸とデートするということになったため、本来ならば、この空間が理想だったはず。
それでも、紬の胸の奥の方がザワザワした。
ずっと持っていたキーホルダーのような何かが離れて行ったのかなという心に寂しさのような違和感を覚えた。
乗り物に乗っている最中の紬はどこかうわの空だった。
「紬、どうかした?」
「…え、何もしてないよ。」
「さっきから、何かぼぉーとしているよ。まだ具合悪かった?」
「あ、うん。んじゃ集中するね。」
「いや、別にゆったり乗る乗り物だから、別にそこまで真剣に構えなくてもいいんだけどさ。」
船のようになっている乗り物に、下は水が流れている。
ぷかぷか浮かびながら、景色を楽しむものだった。最後の方に少し滑り台のように流れ落ちるところがあった。
「…美嘉ちゃんのこと。気になるの?」
「…あ、あー、遠くはないから、そうかも。なんで分かるの?」
「何となくね。さっき2人と離れてから雰囲気違うから。」
「何だか…陸斗には嘘つけない気がする。」
「ごめん、読みすぎたかな。」
「洸はね、モテるから、いろんな人と付き合っているの見たことはあったけど、ちょっと最近まで結婚考えてた女の人いたのよ。1年くらいは交際してたのかな。その人…、好きな人いるってフラれたらしいのよねぇ。もう3ヶ月は経つかな?」
「ふーん…。洸さんにも真剣にお付き合いしてた方がいたんだね。」
「そう思うよね。俺も聞いた時は信じられなかったけど…。まあ、多分、森本さんなら大丈夫かなって思うよ。様子見てるとね。」
「……うん。」
「ん?納得できない?」
「ううん。納得した!」
本当に言いたいことはそれじゃないと自分では分かっていた。
陸斗には知られたくなかった。
目の前にいる陸斗が好きでいるはずなのに、どうしてこんなにフワフワしちゃっているんだろう。
釣った魚に餌をやらない から?
これがいわゆる早くも倦怠期?
何か物が欲しいわけじゃない。
一緒にいて満足してる。
平凡な気持ちで刺激が欲しかったのか、何となく、洸が嫌だって思ってた気持ちがむしろ心地よかったのか、いなくなると思うと、あるものがなくなる感覚が生じている。
好きな子をいじめる小学生の男の子もいなくなれば、寂しくなるあんな気持ちなのか。
大事な陸斗がいるのに、無いものねだりの贅沢な考えになっている。
「…そういや、もう少ししたら、クリスマスだよね。何か予定立てる?」
「急、だね。話の流れが急展開。」
空気の流れを変えたくて、陸斗はクリスマスの話を持ち出した。
「いいじゃん。楽しみなんだもん。ほら、最後の坂道で滑るよー。」
ぷかぷかと優雅に進んでいた船が降り坂を滑ろうとする。思ったより緩やかだったため、紬は平気だった。
「楽しい!」
「だね。」
真顔だった紬の顔が緩やかになった。
やっとこそ、楽しんでもらえたようで、嬉しかった。
「あそこで休憩しよう。」
乗り物を終えて、屋根つきのテーブルとベンチに腰をおろした。
近くには売店があった。
「イタリアンジェラートだって、食べる?」
「うん。食べたい。」
「よっしゃ、んじゃ買ってくるね。」
陸斗は率先して、ジェラートを2つ買ってきた。
戻ってくると紬は遠くの方でカップルたちが乗り物に乗っているのを見かけた。なぜかうらやましいそうに見ている。
「はい、食べよ。」
「ありがとう。」
スプーンを使ってすくってなめた。
「こっちの味も食べる?」
「いいの?」
「紬のも少しちょうだい。」
陸斗はバニラ味で紬はイチゴ味だった。
「甘酸っぱいね。ちょうどいい甘さ。」
「バニラはクリーミーだね。でもどっちも美味しい。」
無言が続く。パクパクとそれぞれアイスを食べる。
「紬,さっき、あっちの方見てたけど…。」
「あ…。何か、私って、あんな風にデートできてるのかなって不安になっちゃって…。」
「……やっぱ、ダブルデートやめれば良かったな…。」
「え、なんで? 楽しかったよ。」
「失敗した…。」
陸斗は、その場にうなだれた。
紬の気持ちが分散している。明らかに自分自身に向いていないことに気づく。
「あのさ、明日一緒に学校行っていい?」
「え?」
「バス、一緒に乗るから。でも、そっち行く時はバイク置かせてもらっていいかな。紬の家に。」
「うん、たぶん、大丈夫だと思うけど。どうしたの?」
「心配だから。だって輝久と一緒にバス行ってないんでしょ?1人なんだよね。」
「うん、そうだけど。バイク、大丈夫?」
「大丈夫だよ。2人乗りするわけじゃないし。」
陸斗は、輝久のことも、洸とのことも気になり始めていた。独占欲が強く出始めた。
ラインメッセージも毎日必ずもらえるわけじゃない。
紬がふわふわしている気持ちを確かめたくて仕方ない。
輝久と比べて、洸は絶対に一緒にいてほしくないくらい嫉妬心が強く出た。
尚更、従兄でもあるし、素性を知っている。
美嘉と交際していたとしても前歴がある洸は、守らないといけないなと感じ始めた。
「あ、あとさ、今日帰りに駅前のアーケード行ってもいい?」
「ん?うん。何か買うの?」
「うん。」
ニヤニヤと笑みが溢れて戻らない。
「そろそろ、出よう。」
「そうだね。」
紬は陸斗に駆け寄って、手を繋いで着いていく。
周りから見たら、どう見ても恋人同士で様になっているのに自信のない紬。
陸斗はなんで不安になるのか疑問でしかない。
***
「美嘉って呼んでいいんだっけ。」
「はい。」
「今日、俺、バイクで駅に来たんだけど、どうする?後ろ、乗る?それとも電車で帰る?」
地下鉄の仙台駅から地下通路で横並びに歩きながら話す。
「ヘルメットなら、駐車場に2人分あるから。」
「乗ってもいいんですか?」
洸は圧の強い美嘉に引いた。
「う、うん。いいよ。」
「ぜひ、乗ります。」
「家まで送るから、大体の場所教えてもらっていい?」
美嘉はスマホを取り出し、マップに表示させた。
「この辺なの、地図をラインに載せておきますね。」
「ふーん、ここか。了解。あと、バイクはデパ地下駐車場にあるからこっちだから。」
美嘉は指示する方向にくっついて歩く。
バイクの後ろに乗るのは初めての美嘉。ドキドキが止まらない。ジェットコースターより刺激的だった。
エンジンをかけて、ふかした。
「はい、ヘルメット。あと、しっかり腰
つかんでてね。危ないから。あースカートだったね。大丈夫?」
「あ、これ、キュロットなんです。スカートっぽく見えますけど。」
「大丈夫ならいいんだけど、乗るよ?」
洸は、フルフェイスヘルメットをかぶってシールドを開けた。
美嘉は渡されたハーフ型ヘルメットをかぶった。
美嘉の手を引っ張って自分の腰に両手をあてた。
「はい、しっかりつかまって。」
ヘルメットのシールドをしめてアクセルをまわした。
排気音が地下駐車場内に響き渡る。
両手を腰に回しつつ、洸の背中に顔をうずめた。
心から幸福感があふれてきた。
風を切って走るバイクに地面に跳ね返って響くバイク音。
今まで、路上で暴走するバイクの音がうるさいなと雑音でしか感じなかった。
洸が運転するバイクは、全然耳障りじゃなかった。
どうして、乗る人でこんなにも音の聞き方が違うんだろう。
音楽のリズムのようにも聞こえる。
このまま時が止まってしまればいいなぁと思った。
バイクから見える景色は新鮮で新しい世界に飛び込んだようだった。
洸が運転するバイクは、長町方面へ続く国道を走って行く。