シリウスをさがして…
プレゼントを選ぶ楽しみ
ペデストリアンデッキの階段を降りた。少し、路面が濡れていた。
雨が降った後だった。
車の走る雨音が響く。
遠くで歩行者信号機のサイレンが鳴る。
自然と手を繋いで、アーケードを歩く。
車で遠出すると言っていた気がしたが、予定変更かなと思いながら、着いていく。
周りは避けることのできない人ごみで、避けるのに右左とかき分けた。
時々、対面する人にぶつかりそうになった。
「車で行くって言ってたけど、ここの通りにアクセサリー屋さんあるの見つけてたから。もうすぐ着くよ。」
「うん。」
「手、繋げて嬉しいな。あと何回くらいこうやって歩けるのかな。」
信号待ちをしている間、手を握った左手で持ち上げて、紬を見た。
「ん?なんでそんなこと言うの?」
「別に……手繋いで一緒に歩きたいってこと。」
青信号になり、横断歩道に足を進めた。
陸斗はごまかすように、話を遮った。
何かを隠している。
しばらくして、目的地のアクセサリーショップに着いた。
ヘアアクセサリーや、ピアス、ブレスレット、ネックレスが飾られていた。
さすがにそのお店も混雑していた。
「何、欲しい? 学校に着けてもよさそうなやつにする?」
混んでいても、中の方へ進んでいく。
「そうだね。校則違反で没収されそうだから。でも、学校じゃ無い日の出かけるときに着けてもいいよ?って、プレゼント昨日もらったのに良いの?」
いろんなアクセサリーを物色した。
「何言ってるの?! 昨日のはあの時に咄嗟に思いついたもので、正式なクリスマスプレゼントじゃないよ。言ってたじゃん。用意する暇なかったから。気にしないで、好きなの選んで。」
「あ、うん。ありがとう。」
隣で何が欲しいのかなと様子を伺う。
静かにネックレスの蝶々の飾りを見つめたり、3つ並んだシルバーリングを見ていたり、天然石が連なったブレスレットを見ていたりしたが、どれもしっくり来るものが無かった。
「お揃いのものとかにしてみる?」
シルバーのメタルブレスレットを提案してみた。
「うーん。ちょっとなぁ…。」
「指輪はどう? ねじれメタルリングとかちょっと違いがあって良いと思うけども、ほらこの3つセットの。」
紬は、指にはめてみるとかなり細くて空間ができてブカブカに外れてしまう。
陸斗は逆に外れなくなるくらいにギリギリだった。
「紬って、指すごい細いんだね。サイズ測って探さないといけないなぁ。……ちょっと待って、あっちのルフトに指輪売ってたかも。移動しよう。」
陸斗は、紬の手を引っ張って、駅前のデパートルフトに移動する。
「え、指輪にするの?ネックレスでも良いんだけど。」
裏路地に入ると、人の流れが変わった。
「せっかくだし、クリスマス記念日と付き合って……復活記念日?うーん…すっ飛んで婚約指輪にしちゃう?」
「……。」
恥ずかしくて何も言えなくなった。
1回は別れを切り出した。
会わなかったり連絡しなかったのは
2週間程度。
交際期間もカウントに含めても全然違和感無いのにと思った。
「ごめん。変なこと言った。今のなし。指輪って今まで買ったことないし、俺もつけたことないから。お揃いも初めてだな。」
「そういえば、そうかも。良いね。」
キラキラした笑顔を見せた。
陸斗は不意に心臓に矢が刺さった感覚に陥った。
ルフトの2階にある THE Cherry というお店で指輪を探した。
さっきのアクセサリー屋と比べて、ペアリングの数が多く、ペアネックレスもあった。
婚約や結婚指輪にも使われるのか、お値段が結構高めに設定されていた。
くまのキャラクターとコラボしているリングもある。
2人はとりあえずサイズ確認をということでお店の人にサイズ確認用のリングゲージを借りた。
「ん。俺は、これかな。いや、この方がいいかも。」
陸斗は両手の指に23号と24号を交互につけて確かめた。
紬は最初にはめた7号をはめてぴったりはまった。
「紬、細いね。ほら、47.1mmだってよ。俺は、23号だから、63.9mmだって。リングのつける指の位置で意味が違うんだってよ。どこにしようかな。」
陸斗はガラスケースの上にあった説明書を見て、確認した。
左手は理想の手、右手は現実の手と書いてある。
結婚した時につける左手の薬指は愛と幸せの指となっていた。
「やっぱ、左手薬指はとっておきたいから、右手薬指にしようかな。意味は、”心を落ち着かせる“だって。」
「私も同じ指にしようかな。」
リングゲージでサイズを決めた2人はリングの商品を眺め始めた。
「お客様、商品はお決まりでしょうか。」
「あ、すいません。今、リングサイズを決めたところで…えっと、7号と23号でお願いしたいんですが、まだ何にするか決めてないです。」
「かしこまりました。7号と23号ですね。リングの種類はまだということですが、ご予算はありますか?」
「そうですね。20000円前後で…安いですかね。」
「そんなことはないですよ。当店ではリーズナブルな商品もご用意しております。こちらのシルバーリングはシンプルなデザインになっています。価格はお1つ6000円からご用意できますので、お2人分でしたら、12000円です。あと、こちらの種類でしたら、ペアリングを15000円前後でご購入できます。」
店員は、見ていた場所から隣に移動し、通路に飾られたショーケースを案内した。
「結構種類あるね。どれにする?」
「うーん。迷うなぁ。」
「お客様、今ならクリスマス特典で刻印を無料で付けられます。記念日やお名前のイニシャルをつけられる方が多いですが、いかがいたします?」
刻印の見本を参考にイニシャルのR&Tと入れることに決めた。
ただ、どのリングにするかは迷っていた。どのリングもシルバーでさほど大きな大差は無く、ねじりがあるか、でこぼこに四角い模様があるかだった。
「選んでもいい?」
「うん。決まった?」
「この波打ってる感じのが良いかな。目立たない感じだけど、オシャレだし。」
「そっか。んじゃ、それにしよう。すいません、コレでお願いします。」
ガラスケースにあった波打つウェーブリングを選んだ。
「ご試着なさいますか?」
「はい。」
店員は、アクセサリーケースの上にリングを2つ乗せた。
紬と陸斗は、それぞれに指をはめた。
イメージ通りに合っていて、キラキラ光って綺麗に見えた。
肌が白く透き通った紬の手につけられた指輪は白いキャンバスにつけられた銀の絵の具のように引き立っていた。
「似合うね。」
「ありがとう。」
店員は、2人の様子を見て微笑ましかった。自分の若かりし頃を思い出してしまう。
「すいません、これでお願いして良いですか?」
「かしこまりました。刻印をご希望ということで、1週間お時間を頂きますので、来週の火曜日の仕上がりとなります。お名前とご連絡先をこちらにお願いします。その間にお会計の準備をさせていただきますね。」
アクセサリーケースに指輪を戻した。
出来上がりが楽しみでウキウキしてきた。
陸斗は渡されたボールペンでサッサと名前と電話番号を記入した。
滅多に陸斗のフルネームの字を見たことが無かった紬は、マジマジと眺めた。
ゆっくりと丁寧に書かれた文字に魅了された。
「字、綺麗だね。」
「え、そうかな。普通でしょう。」
「私は習字も硬筆も苦手だから、無理。見ない方が良いかも。」
「謙遜するなって、そんなことないっしょ。んじゃ、ここに,書いてみて。」
ポケットからスマホを取り出して、メモ画面を開き,バックからタブレットペンを出した。
嫌がりながらも、自分の名前の『谷口紬』と書いてみせた。
お世辞にもすごい上手いとは言えなかった。
「……。文字が綺麗じゃなくても他が良ければ良いでしょう。大丈夫、読めるから。」
「それ、褒めてはないよね。まあ、分かってはいるけどさ。」
肩を軽くパコパコとグーで叩いた。綺麗な字を書けて羨ましいと思った。少し泣きそうになった。
「お待たせいたしました。お会計ですが、11000円です。お客様?大丈夫ですか?」
じゃれ合う2人に戸惑いを見せる。
「あ、すいません。ちょうどあります。」
陸斗は財布から11000円出して、青いカルトンに置いた。
「11000円確かにお預かりいたします。お名前の記入ありがとうございます。お渡しは来週火曜日です。この控え用紙をお持ちになってください。こちらレシートです。」
「ありがとうございます。来週だから、俺が取りに来るよ。」
「うん。わかった。」
2人は肩を並べ,手を繋いでお店を後にした。
心がホクホクした。初めての,クリスマスプレゼントに,嬉しかった。
「え!ちょっと待って。私は買ってもらったけど、陸斗に買ってないよ?買いに行こう!」
「あ、まあそうだね。俺は別に無くても困らないけど…。結構満足してる感じだよ。」
「いや、ダメだよ。何が良いかな。うーん。」
「えーでも、紬バイトしてないからお金大変なんじゃないの?いいよ、無理しないで。」
ペデストリアンデッキの柵の近くで話していると、紬の表情が暗くなった。
外の天気は曇り空に変わっている。
「私も陸斗にプレゼント渡して、喜ぶ顔が見たい……。」
「紬って、サンタさん?」
陸斗は、下から顔をのぞく。照れた顔が可愛かった。
紬は、斜め上を見る。
体を起こした。
「…というか、俺、まだ紬にプレゼント渡してないけどね。そうだなぁ…首元が寒いなぁ~。」
「…わかった!ネックウォーマー買いに行こう!」
そうなるように誘導する陸斗。
クイズに正解したようだ。
純粋に対応してくれる紬が嬉しかった。
「うん。そしたら、ここの雑貨コーナーでいいんじゃない?」
指輪を買ったルフトの4階辺りで雑貨コーナーに手袋やマフラーなど色々売っているのを覚えていた。
エスカレーターに乗り、4階まで移動した。
シーズンものの雑貨の他に部屋に置く肌触りの良いハリネズミの形の横に長いクッションとライオンの形のクッションが積み木のように並んでいた。
「可愛い。触り心地もいいなぁ。」
「確かに。ペットみたいに置けるね。」
「あ。あった。こっちに手袋とマフラーとかネックウォーマーあるよ。どれがいいかなぁ。」
陸斗の首に掛けようとしたら届かなかった。身長が高すぎた。
「と、届かない。」
「あ、ごめん。屈んだ方がいい?」
中腰に首を向けた。
「うーん。どれがいいだろう。陸斗は素材で肌がかゆくなるとかない?カシミヤ、ウール、シルクとか結構、いろんな種類の素材があるんだけど…。」
いろんな色や素材のマフラーを当て始めた。
「俺は別に、何でも大丈夫だと思うよ。ネックウォーマーじゃなくて、マフラーにするのね。」
「あ、やっぱり。ネックウォーマーの方が持ち運びも楽だよね。バイクとか乗るなら…。」
マフラーとネックウォーマーコーナーをぐるぐる回って商品を探す。
「うん、まぁ。どっちでもいいんだけど、ネックウォーマーはスポーツ系のブランドが多いね。ほら、Poma とかアドィドスとか。」
「そうだね。陸斗は、どちらかと言えばスポーツタイプだから,こっちが良いかもしれないね。黒の色が多いけど、フリース素材が良いかな。」
「うん。それ、良いかも。つけてみる。……どぉ?」
試着用を試しに着けてみた。
「うん、良いね。マフラーだとくるんとして、おしゃれに結ばないといけなくなるから。ウォーマーの方、楽だよね。」
「それじゃぁ、これでお願いします。」
「わかった。買ってくる~。」
陸斗は購入用のネックウォーマーを紬に渡した。エスカレーターのそばでイヤホンで音楽を聴きながら待つことにした。
紬は混み合っているレジの列に並んだ。終始ウキウキしていた。
誰かに何かを買うってこんなに嬉しい気持ちになるとは思ってなかった。
買ってもらうことの方が多かったが、買ってあげることも悪くないと思った。
「お待たせ!何聞いてたの?」
「優樹の曲。」
「ふーん。はい。ラッピングしてもらった。メリークリスマス!」
ラッピングホヤホヤのプレゼントを渡した。
「ありがとう。何か、紬から貰うってもしかして初めてかな。純粋に嬉しい。」
「うん。でしょう?渡して良かった。」
お互いに見つめ合って笑った。
「あれ、そろそろ時間じゃない?大丈夫?何時だっけ。」
スマホの時間を確認した。
「3時半までに帰らなきゃないんだ。えっと今3時だね。」
「結構、ギリギリだ。駐車場行こう。車で送るから。」
「うん。車なら間に合うかも。」
仙台駅東口の時間貸駐車場まで急いだ。
運転席に陸斗が、助手席に紬が乗った。
エンジンをかける。
「あのさ…。」
2人同時に同じセリフで車内は一瞬、時間が止まった?
雨が降った後だった。
車の走る雨音が響く。
遠くで歩行者信号機のサイレンが鳴る。
自然と手を繋いで、アーケードを歩く。
車で遠出すると言っていた気がしたが、予定変更かなと思いながら、着いていく。
周りは避けることのできない人ごみで、避けるのに右左とかき分けた。
時々、対面する人にぶつかりそうになった。
「車で行くって言ってたけど、ここの通りにアクセサリー屋さんあるの見つけてたから。もうすぐ着くよ。」
「うん。」
「手、繋げて嬉しいな。あと何回くらいこうやって歩けるのかな。」
信号待ちをしている間、手を握った左手で持ち上げて、紬を見た。
「ん?なんでそんなこと言うの?」
「別に……手繋いで一緒に歩きたいってこと。」
青信号になり、横断歩道に足を進めた。
陸斗はごまかすように、話を遮った。
何かを隠している。
しばらくして、目的地のアクセサリーショップに着いた。
ヘアアクセサリーや、ピアス、ブレスレット、ネックレスが飾られていた。
さすがにそのお店も混雑していた。
「何、欲しい? 学校に着けてもよさそうなやつにする?」
混んでいても、中の方へ進んでいく。
「そうだね。校則違反で没収されそうだから。でも、学校じゃ無い日の出かけるときに着けてもいいよ?って、プレゼント昨日もらったのに良いの?」
いろんなアクセサリーを物色した。
「何言ってるの?! 昨日のはあの時に咄嗟に思いついたもので、正式なクリスマスプレゼントじゃないよ。言ってたじゃん。用意する暇なかったから。気にしないで、好きなの選んで。」
「あ、うん。ありがとう。」
隣で何が欲しいのかなと様子を伺う。
静かにネックレスの蝶々の飾りを見つめたり、3つ並んだシルバーリングを見ていたり、天然石が連なったブレスレットを見ていたりしたが、どれもしっくり来るものが無かった。
「お揃いのものとかにしてみる?」
シルバーのメタルブレスレットを提案してみた。
「うーん。ちょっとなぁ…。」
「指輪はどう? ねじれメタルリングとかちょっと違いがあって良いと思うけども、ほらこの3つセットの。」
紬は、指にはめてみるとかなり細くて空間ができてブカブカに外れてしまう。
陸斗は逆に外れなくなるくらいにギリギリだった。
「紬って、指すごい細いんだね。サイズ測って探さないといけないなぁ。……ちょっと待って、あっちのルフトに指輪売ってたかも。移動しよう。」
陸斗は、紬の手を引っ張って、駅前のデパートルフトに移動する。
「え、指輪にするの?ネックレスでも良いんだけど。」
裏路地に入ると、人の流れが変わった。
「せっかくだし、クリスマス記念日と付き合って……復活記念日?うーん…すっ飛んで婚約指輪にしちゃう?」
「……。」
恥ずかしくて何も言えなくなった。
1回は別れを切り出した。
会わなかったり連絡しなかったのは
2週間程度。
交際期間もカウントに含めても全然違和感無いのにと思った。
「ごめん。変なこと言った。今のなし。指輪って今まで買ったことないし、俺もつけたことないから。お揃いも初めてだな。」
「そういえば、そうかも。良いね。」
キラキラした笑顔を見せた。
陸斗は不意に心臓に矢が刺さった感覚に陥った。
ルフトの2階にある THE Cherry というお店で指輪を探した。
さっきのアクセサリー屋と比べて、ペアリングの数が多く、ペアネックレスもあった。
婚約や結婚指輪にも使われるのか、お値段が結構高めに設定されていた。
くまのキャラクターとコラボしているリングもある。
2人はとりあえずサイズ確認をということでお店の人にサイズ確認用のリングゲージを借りた。
「ん。俺は、これかな。いや、この方がいいかも。」
陸斗は両手の指に23号と24号を交互につけて確かめた。
紬は最初にはめた7号をはめてぴったりはまった。
「紬、細いね。ほら、47.1mmだってよ。俺は、23号だから、63.9mmだって。リングのつける指の位置で意味が違うんだってよ。どこにしようかな。」
陸斗はガラスケースの上にあった説明書を見て、確認した。
左手は理想の手、右手は現実の手と書いてある。
結婚した時につける左手の薬指は愛と幸せの指となっていた。
「やっぱ、左手薬指はとっておきたいから、右手薬指にしようかな。意味は、”心を落ち着かせる“だって。」
「私も同じ指にしようかな。」
リングゲージでサイズを決めた2人はリングの商品を眺め始めた。
「お客様、商品はお決まりでしょうか。」
「あ、すいません。今、リングサイズを決めたところで…えっと、7号と23号でお願いしたいんですが、まだ何にするか決めてないです。」
「かしこまりました。7号と23号ですね。リングの種類はまだということですが、ご予算はありますか?」
「そうですね。20000円前後で…安いですかね。」
「そんなことはないですよ。当店ではリーズナブルな商品もご用意しております。こちらのシルバーリングはシンプルなデザインになっています。価格はお1つ6000円からご用意できますので、お2人分でしたら、12000円です。あと、こちらの種類でしたら、ペアリングを15000円前後でご購入できます。」
店員は、見ていた場所から隣に移動し、通路に飾られたショーケースを案内した。
「結構種類あるね。どれにする?」
「うーん。迷うなぁ。」
「お客様、今ならクリスマス特典で刻印を無料で付けられます。記念日やお名前のイニシャルをつけられる方が多いですが、いかがいたします?」
刻印の見本を参考にイニシャルのR&Tと入れることに決めた。
ただ、どのリングにするかは迷っていた。どのリングもシルバーでさほど大きな大差は無く、ねじりがあるか、でこぼこに四角い模様があるかだった。
「選んでもいい?」
「うん。決まった?」
「この波打ってる感じのが良いかな。目立たない感じだけど、オシャレだし。」
「そっか。んじゃ、それにしよう。すいません、コレでお願いします。」
ガラスケースにあった波打つウェーブリングを選んだ。
「ご試着なさいますか?」
「はい。」
店員は、アクセサリーケースの上にリングを2つ乗せた。
紬と陸斗は、それぞれに指をはめた。
イメージ通りに合っていて、キラキラ光って綺麗に見えた。
肌が白く透き通った紬の手につけられた指輪は白いキャンバスにつけられた銀の絵の具のように引き立っていた。
「似合うね。」
「ありがとう。」
店員は、2人の様子を見て微笑ましかった。自分の若かりし頃を思い出してしまう。
「すいません、これでお願いして良いですか?」
「かしこまりました。刻印をご希望ということで、1週間お時間を頂きますので、来週の火曜日の仕上がりとなります。お名前とご連絡先をこちらにお願いします。その間にお会計の準備をさせていただきますね。」
アクセサリーケースに指輪を戻した。
出来上がりが楽しみでウキウキしてきた。
陸斗は渡されたボールペンでサッサと名前と電話番号を記入した。
滅多に陸斗のフルネームの字を見たことが無かった紬は、マジマジと眺めた。
ゆっくりと丁寧に書かれた文字に魅了された。
「字、綺麗だね。」
「え、そうかな。普通でしょう。」
「私は習字も硬筆も苦手だから、無理。見ない方が良いかも。」
「謙遜するなって、そんなことないっしょ。んじゃ、ここに,書いてみて。」
ポケットからスマホを取り出して、メモ画面を開き,バックからタブレットペンを出した。
嫌がりながらも、自分の名前の『谷口紬』と書いてみせた。
お世辞にもすごい上手いとは言えなかった。
「……。文字が綺麗じゃなくても他が良ければ良いでしょう。大丈夫、読めるから。」
「それ、褒めてはないよね。まあ、分かってはいるけどさ。」
肩を軽くパコパコとグーで叩いた。綺麗な字を書けて羨ましいと思った。少し泣きそうになった。
「お待たせいたしました。お会計ですが、11000円です。お客様?大丈夫ですか?」
じゃれ合う2人に戸惑いを見せる。
「あ、すいません。ちょうどあります。」
陸斗は財布から11000円出して、青いカルトンに置いた。
「11000円確かにお預かりいたします。お名前の記入ありがとうございます。お渡しは来週火曜日です。この控え用紙をお持ちになってください。こちらレシートです。」
「ありがとうございます。来週だから、俺が取りに来るよ。」
「うん。わかった。」
2人は肩を並べ,手を繋いでお店を後にした。
心がホクホクした。初めての,クリスマスプレゼントに,嬉しかった。
「え!ちょっと待って。私は買ってもらったけど、陸斗に買ってないよ?買いに行こう!」
「あ、まあそうだね。俺は別に無くても困らないけど…。結構満足してる感じだよ。」
「いや、ダメだよ。何が良いかな。うーん。」
「えーでも、紬バイトしてないからお金大変なんじゃないの?いいよ、無理しないで。」
ペデストリアンデッキの柵の近くで話していると、紬の表情が暗くなった。
外の天気は曇り空に変わっている。
「私も陸斗にプレゼント渡して、喜ぶ顔が見たい……。」
「紬って、サンタさん?」
陸斗は、下から顔をのぞく。照れた顔が可愛かった。
紬は、斜め上を見る。
体を起こした。
「…というか、俺、まだ紬にプレゼント渡してないけどね。そうだなぁ…首元が寒いなぁ~。」
「…わかった!ネックウォーマー買いに行こう!」
そうなるように誘導する陸斗。
クイズに正解したようだ。
純粋に対応してくれる紬が嬉しかった。
「うん。そしたら、ここの雑貨コーナーでいいんじゃない?」
指輪を買ったルフトの4階辺りで雑貨コーナーに手袋やマフラーなど色々売っているのを覚えていた。
エスカレーターに乗り、4階まで移動した。
シーズンものの雑貨の他に部屋に置く肌触りの良いハリネズミの形の横に長いクッションとライオンの形のクッションが積み木のように並んでいた。
「可愛い。触り心地もいいなぁ。」
「確かに。ペットみたいに置けるね。」
「あ。あった。こっちに手袋とマフラーとかネックウォーマーあるよ。どれがいいかなぁ。」
陸斗の首に掛けようとしたら届かなかった。身長が高すぎた。
「と、届かない。」
「あ、ごめん。屈んだ方がいい?」
中腰に首を向けた。
「うーん。どれがいいだろう。陸斗は素材で肌がかゆくなるとかない?カシミヤ、ウール、シルクとか結構、いろんな種類の素材があるんだけど…。」
いろんな色や素材のマフラーを当て始めた。
「俺は別に、何でも大丈夫だと思うよ。ネックウォーマーじゃなくて、マフラーにするのね。」
「あ、やっぱり。ネックウォーマーの方が持ち運びも楽だよね。バイクとか乗るなら…。」
マフラーとネックウォーマーコーナーをぐるぐる回って商品を探す。
「うん、まぁ。どっちでもいいんだけど、ネックウォーマーはスポーツ系のブランドが多いね。ほら、Poma とかアドィドスとか。」
「そうだね。陸斗は、どちらかと言えばスポーツタイプだから,こっちが良いかもしれないね。黒の色が多いけど、フリース素材が良いかな。」
「うん。それ、良いかも。つけてみる。……どぉ?」
試着用を試しに着けてみた。
「うん、良いね。マフラーだとくるんとして、おしゃれに結ばないといけなくなるから。ウォーマーの方、楽だよね。」
「それじゃぁ、これでお願いします。」
「わかった。買ってくる~。」
陸斗は購入用のネックウォーマーを紬に渡した。エスカレーターのそばでイヤホンで音楽を聴きながら待つことにした。
紬は混み合っているレジの列に並んだ。終始ウキウキしていた。
誰かに何かを買うってこんなに嬉しい気持ちになるとは思ってなかった。
買ってもらうことの方が多かったが、買ってあげることも悪くないと思った。
「お待たせ!何聞いてたの?」
「優樹の曲。」
「ふーん。はい。ラッピングしてもらった。メリークリスマス!」
ラッピングホヤホヤのプレゼントを渡した。
「ありがとう。何か、紬から貰うってもしかして初めてかな。純粋に嬉しい。」
「うん。でしょう?渡して良かった。」
お互いに見つめ合って笑った。
「あれ、そろそろ時間じゃない?大丈夫?何時だっけ。」
スマホの時間を確認した。
「3時半までに帰らなきゃないんだ。えっと今3時だね。」
「結構、ギリギリだ。駐車場行こう。車で送るから。」
「うん。車なら間に合うかも。」
仙台駅東口の時間貸駐車場まで急いだ。
運転席に陸斗が、助手席に紬が乗った。
エンジンをかける。
「あのさ…。」
2人同時に同じセリフで車内は一瞬、時間が止まった?